大きい虫のいる川は、大きな魚がいるような気がする。
ぱたぱたと大型のカゲロウが飛んでいるのが見えると、なんだかゆっくりしてられない。
フライボックスから大型カゲロウにマッチさせたフライを取り出しティペットに結ぶ。
こんな大きなフライで釣れるだろうか? と不安にかられる。
大型カゲロウへの期待と大型フライへの不安。妙な感情の混在をかかえたまま、僕はキャスティングを始めた。
またカゲロウが目の前を飛んだ。
ヨシノマダラにしては季節が早過ぎる。温暖化の影響か??
ゆるやかな里川は開けているから陽が昇ってくると強い陽射しがまんべんなく降り注いでくる。
まだ早い時間は気温も上がらず、水も冷たくカゲロウも飛ぶ。
大型フライを流れに落とすとその下を影が走った。
うまく流れない。もう一度流すとまた走った。今度はフライを食った。
と、すぐにバレた。いいぞ、このサイズのフライでも十分いけそうだ。陽が昇らないうちに、カゲロウが飛んでいるうちに、しっかり釣っておこう。
山あいの里から奥深い谷へ。
水の張られた水田は田植えを待つばかりの状態になっている。
きっとこの川も一度は濁っただろうけど、今は澄んだ流れに戻っている。
僕が魚を掛け損ない、声を上げるたびに、土手で作業をしているおじさんがこっちを見る。
笑っているのが分かる。これはいかん。
この時期はこういう農作業の人たちとの接触が頻繁に起こる。僕としてはいいところを見せたいという欲が出るのだが、そこはそうはいかないのが釣りというものだ。
村道のすぐ横の流れでもヤマメは健在でした。
川が二股に分れている所まできた。
水量の具合はどちらが本筋でどちらが支流、ということはないようだった。僕は分れの所で左の支流に向かって大型のカゲロウが飛んで行くのを見て、それに引き寄せられるように左へ足を向けた。
ここから先は入ったことのない区間だった。右と左のそれぞれの川が上流に行くに従いどんな様子になっていくのかは、何人かの釣り仲間から聞いていた情報が頭にぼんやり残っている。
不確かな記憶だが、左の方がいいような話を聞いた気がする。それにやはりカゲロウがどんどん飛んでいる方が釣りのテンションも上がるというものだ。
姫蓮華が群生する谷。黄色と新緑がまぶしい。 流れは急激に細くなり、里の気配は消えた。
左の支流はすぐに狭く深くなっていった。
典型的な渓流の様相で釣りをするのは、確か今年になって初めてになる。
今までのびのびとロッドを振れる場所ばかりだった。新緑の枝葉が伸びて来つつある川で、引っ掛かりを気にしながらの釣り、というモードにはまだなっていない。
と、思う間もなくフライが枝に引っ掛かった。大型フライはあとひとつしかない。
まずは大事にフライを回収した。上流を見ると更に流れは狭くなっていくようだった。
この体形は大型カゲロウを食べたからか?
何匹か釣れはしたが、全くの子供のアマゴばかりだった。
足下を見ると大型カゲロウが何匹も石に止まっている。みんなオオマダラカゲロウのようだ。
彼らは夕方ハッチするはずだからここにいるのは昨日ハッチしたオオマダラということか。
こいつらがいるのならこの先にきっといいアマゴがいるに違いない。そう信じて更に奥へと向かうことにした。
またフライに水しぶきが上がった。空振りしたが魚のしっぽが水面を叩く音がした。こりゃあいい型がいるな。
大振りのウイングとボディの色合いがポイント。
前方に黄色のかたまりが見えてきた。流れのあちこちの石の上に群生する姫蓮華だった。
石の上にちょっとかたまって咲いているのは見た事があったが、これだけたくさんのものは初めて見た。深く薄暗くなった谷にポッと明るく灯がともったようだ。
姫蓮華の先のポイントへキャスト。またヒレ叩きの音とともに水しぶきが上がった。今度はフッキングした。
ぐいぐいとよく引いたが、引きのわりに体長はそうでもなかった。しかししっかり太った魚体はオオマダラを食べているからか。
短期集中のオオマダラのハッチに出くわすことは稀だ。
だいぶ谷を遡って歩いた。斜面のずっと上には道路があるようだがどのあたりかは見えてこない。
またオオマダラがぱたぱたと飛んでいる。春先のマエグロやトビイロカゲロウなんかの小型が飛ぶのとはだいぶ雰囲気が違う。
大きいカゲロウが飛べば気分も高まるのは無理もない。
大型フライは外れではなかったが姫蓮華のポイントの一匹以外は、よくこのフライに食いついたなというくらいの小型アマゴばかりだった。
この谷はアマゴよりもカゲロウと姫蓮華がよく育つ谷のようだ。
やれやれ、今日の釣りは終わり。車まで遠いなあ。