(あ、ここもか)
これで二ヶ所目、目当ての場所には車が停まっていた。
三ヶ所目までは考えていない。どうするか、どこの川へ行こうか。
来る途中の入れそうな川ならいくらでもあるが、釣れそうな川と言う事になればそんなにはない。
やはり禁漁前の最後の日曜日ということになれば、釣り人も多いのは当たり前か。
僕にしてもこれが最後のチャンスだからこうやって出掛けてきたのだけど、ちょっと時間が遅かったか。
う〜む、やっぱりちっちゃいなあ。
来た道を少し下流へ戻った。
こうなったら万全のポイントでなんてことはもう諦めて、どこか良さそうな場所で入るしかない。
今年何度か入った場所から始める事にした。夏には入った事のない場所だ。
川に降りて水が少ないことに驚いた。あの八月初旬の豪雨の気配は岸のかなり上の斜面にまで水位が上がった跡だけだ。
クモの巣はない。セミの鳴き声がなんだか弱々しく聞こえた。
そしてしばらく行くと目の前のプールでライズが起こった。
秋のヒラタカゲロウ。季節の進行が早い。
ライズからすっかり離れたこの時期、神経質そうなライズは逆にプレッシャーだ。
ヒラタだろうか、黄色っぽいカゲロウが飛んでいる。
どうする? アントを結んでいるが黄色のフライに取り換えるか?
またライズした。しかし僕はアントを投げてみようと思った。
慎重に一投目、一番いいところにふわりとフライを落とした。
水しぶきが上がった。一発で掛かった。ググッと引かれたと思ったら水面から30cmくらいジャンプした。僕は「やったっ!」と声を出していた。
きれいなヤマメ。これ以上の魚を望むのは贅沢か?
ここはヤマメの川だが、近年アマゴの姿が多くなっていた。放流の時にアマゴが混じるのか?
しかしこのライズの魚はヤマメだった。本来こいつが釣れないといけないのに、ヤマメが釣れたことがすごく稀なことのように思えた。
その時、ひとつひらめいた。今日はヤマメとアマゴとゴギの三種類の魚を全部釣ってみよう。三目釣りだ。
ある意味ヤマメが一番むつかしい。その魚をクリアしたのだから、のこり二目はそんなにむつかしいことではないように思えた。
この川筋の良さそうなところを攻め、川を上がった。車に戻り、アマゴとゴギが混生する川を目指す事にした。ヤマメの川の滞在時間は一時間半だった。
県境の峠を越えて二つ目の川。ここは最上流部はアマゴ、その少し下流がゴギの生息圏という変わった川だ。
最初の川と違い釣り人の車も姿もない。そのことに僕はうっすら不安を覚えた。この川でアマゴとゴギを釣ると言うのもちょっと安易な考えだったかもしれない。
とにかくフライを流してみよう。最初の川よりも谷が深く幅が狭い。そのせいか湿気がこもっているようで蒸し暑い。
ただそれは雲行きのせいもあるようだった。見上げるとどんよりした雲が空を覆っていた。
狙い過ぎ? いかにもなゴギの川は・・・?
この川は魚の気配がしなかった。
ここにどれだけゴギがいて、釣られたのか。それともゴギにとっても住みにくくなったのか。
ぱらぱらと雨が落ちてきた。辺りはますます暗くなってパラシュートのポストもよく見えない。
いや、食ったのか?
合わすとゴギが掛かっている。不本意だが、やったやった!!
これで二目め、あとはアマゴだ。
雨足はまだ強くなるでもなく、ぽつりぽつりと降っている。僕は道路に上がり、車で上流へ移動した。
痩せたゴギでも一応クリア(^_^;
堰堤をひとつ過ぎて川に降りた。
あとアマゴ一匹でいい。サイズを言わなければ楽勝だろう。
良さそうなポイントだけを拾い釣りして上がった。しかしアマゴは出てこない。
ゴギの区間にしてもやっとの一匹だった。なんだか急に釣れそうもない気がしてきた。

考えてみれば禁漁間際でどっさり釣れるのなら、まだまだ釣れるのにそのあと禁漁で釣りが出来なくなるのは口惜しいことに違いない。
それがもう川にはほとんど魚はいないのだとわかれば、なんとなく今年の釣りも終わりだと納得しやすい。
釣り人に未練を残させないように川の魚たちも姿を消してくれているように思えた。

はらはらと落ち葉が舞っている。
山ではもうとっくに夏は過ぎ去って、次の季節の準備が進んでいるようだ。
今年いい釣りが出来た流れ。来年もよろしく。
かなりの距離を歩いたがさっきのゴギ以降、一匹の魚も出てこなかった。
もうこりゃあ無理だな、あきらめようかと思った時、スッと日が射してきた。
いつの間にか雨は上がり辺りが明るくなっている。
あ、そうか。そういえば今日は一番最初に小さなアマゴを釣っていた。ヤマメの川のアマゴだからイマイチだと思っていたが、一応三目釣りは達成している。
それなら次に四目め、ハヤでも釣ってから帰ろうか。
さて、もういっちょう釣りますか。