予想に反して桜は咲いていた。
ただ寒々とした風景の中で、桜だけがなんだか場違いのもののようにも見える。
北部ではまた雪が降った。その影響を避けて西の川へやってきた。
さすがに雪はないが、かわりに午前のうちからすでに強い風が吹いている。せめて昼までは無風の釣りを楽しみたかったなあ。
フライ的にはちょっとまだ時間が早かった。風も水も冷たい。しかし少し待ったところでそう急に暖かくなるとも思えず、風も止むとは思えない。
ぬお〜、風に押される〜(>_<)
川に立つと餌釣り師が入っていた。すぐ上流に車が見え、どうやら釣り下っていくようだ。
僕はロッドで上流を指す仕草をしてみせた。餌釣り師はどうぞどうぞと手を差し出した。これでこの日の釣り始めの場所が決まった。
強風の中、キャストを始めた。フライは僕の思うポイントに落ちることはなかった。
この川はすぐ横には田んぼや集落のあるのどかな里川だ。春先はこんな川でのんびり竿を振りたいのだが、この日はどうもそうはいかないようだ。
いくら桜が咲いても春らしさが感じられないなあ。
流れの中にぎらりと光る魚体が見えた。これはいい型がいるな。
しかし風が止まない。少し待ってみることにして、川原の岩に腰を下ろした。
「釣れますか?」と声がした。見ると土手の上に地元のおばさんが立っている。
「いやあ、風が強いんでなかなかむつかしいですね」と言うと、ぺこりとおじぎして歩いていった。そのジャンバーのフードをかぶっている姿は真冬の出で立ちだな、と思った。
実際僕もフリース重ね着だ。この日はこれでちょうどいい。
川に立つや否や吹き荒れる風。土手の人も寒そうです。
水面が風で波立っている。
座って待っていてもこれまた間が持たない。結局風が止むのを待てなくてキャストを始めた。
風はフライラインを容赦なく巻き上げる。無理やり前方へ辛うじて投げてみた。
フライもドラグがかかっているのか風で引きずられているのかわからないが、魚が食いつく状態ではないことはわかった。
なんでもそうだがある程度の状況はなんとかしても釣りになるものだ。しかし、ここまでの強風だとやる気が萎えてしまう。
場所を移動しつつ所々で竿を出してみた。
何度か魚が出てきたが、フライがまともに流れていないから、見切られたり空振りしたりで釣りにならない。
ちょっとした風の止み間にライズも見つけたが、強くキャストするクセがついてしまっていたので、ラインで水面を叩いてしまって、一発で沈黙してしまった。
そしてまたすぐ風が吹き始めた。こうなるとだんだん集中力がなくなってくる。僕はいったん車に戻ることにした。
このもじゃもじゃは釣れそうなんだがなあ。
思うに今年の釣りはこの日までの何回かの釣行で、一回目の解禁日が一番暖かかったんじゃないだろうか。
そのあとは逆にどんどん寒くなり、雪も降り、桜が咲いても花冷えで、季節を逆行している。
しかもそういう日は週末に固まっているというのも、これまた間が悪い。

後日、例によって忘備録になっているこのホームページの去年の釣乃記を見てみると、解禁からあと毎週末晴れの釣りとなっている。なんだか呑気に気ままに釣りをしているなあ。ウラヤマシイ。
まあ去年の自分に嫉妬しても仕方がないな。
帰りの道中でmGと遭遇。鋭くライズを狙ってます。 久々にリバーサイドラーメン。美味美味。
上流へ移動した。
風は少し収まっているような気がした。流れもドライフライ向きのフラットな場所だ。
一投目であっさり釣れた。放流まもない感じのアマゴだ。
風がないことが水面下にどれだけ影響するのか? 釣り手の方の精神面の影響の方が大きいかも知れないな。
続けてもう一匹。風が吹き始めないうちに釣れるだけ釣ろう。
しばらく歩くと山からダンプが行き来する道が見えてきた。こんな場所でも工事か。
風の里を歩く。天気はいいのになあ。
ダンプが土埃を上げて走ってきた。
と、そのダンプが僕の横で止まった。
「釣れるかね」サングラスをかけた強面の運ちゃんが話しかけてきた。
「何匹か釣れました」と言うと、
「この先の右の支流のずっと上の堰堤にでかいのがおるで」
と言ってまた土埃を巻き上げて走り去った。
地元の工事現場の人の言うことだからかなり有力な情報かもしれない。

運ちゃんポイントへ行こうかと思ったが、ここから先、まだいい感じのフラットな流れが続いている。
カゲロウのハッチが始まったようで、逆光にカゲロウが白く浮いて見える。
ここはせっかくの運ちゃんのご好意だが、この場所をほっといて行く訳にはいかない。
フォルスキャストをして、目の前の流れにフライを投げた。バシュッと水面が弾けた。
アマゴをネットですくった時、また風が吹き出した。
風がこの川のアマゴを守っているのかも知れない。