朝は放射冷却で結構冷え込んだが、みるみる気温は上がってきているようだ。
これなら早い時間からハッチとライズが期待出来そうだ。
いつものライズポイントはまだ陽が射していなかった。しかしピシャッと小さなライズ。
なんだ、十分イケるじゃないか。これなら今日は数釣りのスイッチが入りそうだ。
早速CDCダンを投げてみる。すぐにフライは食われた。ロッドを立てて寄せる。しかし魚を見るまでもなくカワムツだとわかった。
目に鮮やかなベニヤマザクラ。
華やかな彩りに背中を押されて。
流心でフライは消えた。
ロッドを立てると掛かっている。今度はカワムツなんかじゃあない。流れに乗させず手前に寄せた。川底の石の色のうつったヤマメだった。その上流で更に一匹、そしてもう一匹。
ものの三十分、ひとつのプールとその流れ出しの区間だけですぐに十匹。
やっぱり今日は数釣りモードのようだ。だがまたまだライズは釣っていない。
いったん車へ戻り、ライズの期待できる別のポイントへ移動した。
やっぱりカワムツとは引きが違うなあ。
川沿いにはぽつりぽつりと民家がある。けたたましく吠える犬もいる。
そしてどの民家にも一本か二本、桜の木がある。どの木も花をつけ、里山ののどかな春が目の前にある。
これでウグイスでも鳴けばホントにのんびりした春だなあっと思ったらウグイスが鳴いた。
ケキョケキョケキョっといつまでも途切れず鳴き続けている。
ウグイスのBGMを聞きながら川土手を下りた。緩く長いフラットな流れだ。ここもライズが期待できる。
山里もすっかり春。
いや、ちょっと通り越してるか?
今まさに満開の桜もあります。
町はもう散ってるなあ。
釣りに来てあまりゆっくりと花とかを眺める、なんてことはしたことがなかった。
咲いてるなあとは思うが、それだけであとは流れに集中する。
でもせっかく山へ出掛けてきたのだから、ちょっとは釣り以外にも目を向けてもよかろう。
町ではすっかり葉桜になっていても、この辺りではまだまだ見ごろ。華やかな花々は厳しい冬をようやく乗り越えた里の人たちへのご褒美のようにも思える。
僕にとってはまだまだヒノキの花粉に油断出来ない季節だが。
二つ目のポイントは沈黙していた。陽は頭上近くにまで上がっていたから、その陽光の強さはヤマメの動きを止めてしまうのかも知れない。
それでも魚のつきそうな筋を流してみた。
何投目かでヤマメが出た。水中をもがくヤマメの横にカゲロウが浮上した。
みるみる何匹ものカゲロウが水面に現れ流下していく。
それを横目に捕食することも出来ずに寄せられていくヤマメはなんと無念だったことだろうよ。
なにがサインになって始まるのか?
ハッチし出したら止まらなくなる。
また移動した。三つ目のここも土手の下の流れでライズ狙いだ。
まだ水面に変化がないので昼食にした。
ラーメンを作っていたら見覚えのある車がこちらに近づいていた。N君の車だった。
彼とは先月M川氏と釣りに行った時にも出会っていた。彼もここの前にひと釣りしてきたようで、更にこの土手の下のライズを狙って来たようだ。なるほどみんな考えることは同じだな。
N君といっしょに昼食をとることにした。
ライズが続けば移動せずに釣果があがる。
土手の桜はほぼ散っていたが、まだ風に吹かれて花びらが舞っていた。うっかりしているとラーメンに花びらがはいってしまう。
コーヒーを淹れN君と話をしながら、釣りの合間にこういうゆったりした時間を持つのもいいなあと思った。花を眺めるのと同じで釣り一辺倒よりも気分のスイッチの切り替え効果があるようにも思う。
ただラーメンにコーヒーとなるとそれなりに時間がかかるから、よっぽど気持ちと時間に余裕のある時でないと出来ないかなあ。
気持ちの余裕。それは昼食前までにいくら釣っているか、ということになるな。やっぱり。
昼食を食べ、ひとしきり話すとN君はライズを探しに別の場所へ向かった。
僕も昼食の片づけをしてロッドを出した。いつまでも上から見ていてもしようがない。
土手下の流れはライズはなかった。カゲロウの流下も見られず、フライを流しても当然のようにヤマメは出ない。
しばらく粘ってみたがどうもダメなようなので、そこから少し上流へ移動した。
中くらいのプールの流れ込みで小さなライズがあった。
いつもの川の枝垂れ桜。今年はバッチリ見れました。
よく見るとカゲロウが水面でチョンチョンしている。
と、ヤマメがバサッと出た。カゲロウは間一髪それをかわし、またチョンチョンしている。するとまたヤマメが出るがカゲロウは器用にそれをかわす。しつこくヤマメがしぶきをあげるが空振りばっかりだ。
どうやらここではカゲロウが一枚上手のようだった。
そのカゲロウもどこかへ飛んでいった。ならば次は僕の番だ。
ヤマメをかわす必要はない。僕はCDCダンを、腹ぺこのはずのヤマメに向かって投じた。
花の里をのんびり散歩。これはこれでよろしい。