一年前にも似たようなことを書いたのだけれど、冬キャンプは「住」「食」「眠」が大きくその割合を占めるイベントとなる。
「住」でテントを立てて風よけの雪壁を作る(あれ? イグルーじゃなかったっけ?)。これが寝るまでの時間を過ごす大事な空間となるのだ。
「食」は言うまでもない。冷えた体を暖めるだけでなく、氷点下の環境では味覚が普段の数倍に研ぎ澄まされるようで、それぞれの食材の味が容赦なく舌に訴えかけてくる。更にはそれらは例外なくうまいのだ。こたえられません。
数年ぶりにオプティマス8Rハンター出撃。
軽快に炎を上げる薪を焚き火台に遠慮なく投入し、一品目のゲロ氏担当の豆鍋は早くもピリッといい香りを漂わせ、まだかまだかのサインがわりのコッフェルを差し出す。MSRのドラゴンフライで二品目を担当するY本氏はなにかしくじったようで、奇声を発している。
そろそろ出番かな?と私もオプティマスを点火し、ソーセージやらかまぼこやらイワシなんかをスモークする準備を始めた。
ちょっと今夜の「食」は豪勢なんじゃないかい?
ゲロ氏得意の豆鍋(手前)とY本氏の○□鍋(奥)。
しかし、宴の雲行きは徐々に怪しくなってきた感じだ。まずY本氏の鍋が口火を切った。どうにも酒を入れ過ぎたようで、とても子供が口にすることは出来ないシロモノだが、私が食べる分には結構イケル。
更にはゲロ氏の調達してきた薪は二束目になると急に火付きが悪くなり、くすぶる焚き火台と格闘するゲロ氏のアタマに手をかざすとほのかに暖かい。ををっ、湯気まで出ているでわないかっ!!でもゲロ氏の丸いアタマの上では鍋の安定は悪そうだ。
追い討ちをかけるように、満を持して登場した私のスモークはどうも食べると舌がしびれるらしい。子供のそんな感想に、私はスモークには箸をつけなかった。君子危うきに近寄らずぢゃっ! はっはっはっ。
名付けてスノーステンドグラス by gun。 酸欠になるくらい酸素を吹き込む。
焚き火の火がなんとか落ち着いた頃、どうやら外にあるものが次々と凍り出していた。ビールはシャーベット状になり、イグルーの外に出していた三脚も素手では持てない状況だった。
ぐらついていた雪ブロックもお互いに凍りつきしっかりと補強され、もはやイグルーの外へ出るのは用をたす時のみとなる。こうなるともう根が生えたみたいに火の前から動けなくなってしまう。Y本家のプチ王女様もK.bもテントに潜り込んで「眠」の時間に入っている。あとは酔っ払いの大人のぐだぐだの時間だ。
ようやく焚き火も安定し、くつろぎのひととき。
薫製を断念し余った食材を網に乗せ焚き火の火で焼きながら、焚き火台に身を寄せあう。
こういう時はナンということもない話をとりとめもなくしてしまう。その上話した内容なんて酔っぱらっててほとんど覚えてない。散々苦労して作った「住」の空間もなんだかたいした扱われようだなって感じだが、そういうのが逆にいい。業務効率だのコスト削減だのとは真逆のこんな夜だからこそ。

夜空はスカッと晴れ渡り、冷気が覆いかぶさるように降りてくるのがわかる。焚き火の熱もイグルーの空間にとどめることは出来ず上空へと逃げて行く。
その遥か彼方には冬の星がその光をここぞとばかりに放っている。もっともそれはずいぶんと昔に放たれたものなのだろうけど、ちゃんと今こうやって見えている。ちゃんと届いてますよ。
こちらのランタンと焚き火の光はどうですか?
遥かに瞬く星の下の丘の上。

結氷の銀の雪の湖畔にて。
「気持ちイイー」の川の字。
翌朝(と言っても昼近い)、凍てつくテントサイトが緩むまでの時間を湖岸で過ごした。全面結氷の湖が陽光を柔らかくはね返し、寒さにこわばった体もゆっくりと溶かされていくようだ。
そして恒例の大仕事の後片づけ。荷物を出す時はアッという間なのに片づける時のなんとしんどいことか。それでもやっと車に積み込んでやれやれと張った気を弛めていると、やにわにY本家のプチ王女様が下々のやからにこう言い放った。
「さあ、それじゃぁかまくら作りの続きをするわよっ!」
ラストはやっぱりエスプレッソで。
おしまい