つらつらと考えてみるに、なにを好きこのんでこの大雪の寒空にキャンプなぞをするのか? まったくもって正当な疑問である。
同じ雪山モノのスキーやスノボーと比べてみると、やはりスキーなどは面白さがわかりやすい。じゃあ冬キャンプの面白さとはなんざんしょ?
これはもうひとえに「やってみればわかる」としか言い様がない。そりゃぁ、どんなことでもそうだろうから、無理やり言葉にしたらどんなもんだろう?
キャンプの夜を演出する道具たち。
今回の設営では周囲も空もかこったから(というか掘った)、外界とのへだたりがかなりのレベルの空間を作った。確かにY本の狙いどおりランタンを二つ焚いたらかなりスノーシェルターの中はぬくもってきた。
それでも外は雪が降り積もり、時折すき間から粉雪が吹き込んでくる。万全ではないその空間の危うさが逆にいい。
ひょっとしたら中の熱で雪壁が崩れるかも知れないとか、雪が積もりすぎてタープが破れたりずり落ちたりするとか、考えられなくはない。
「今週もするとは思わんかったのぉ」
「だって来週からずっと仕事なんじゃもん」
よもや滝に打たれる修行僧を演じるつもりはないが、人はなにか危うい状況に生身の自分を置くことに快感を覚えるのかもしれない。
こんな外と中の境目があってないような空間でさえ、その中で心細い暖をとりながら瞬時に冷めてしまうディナーを食べて湯割りの焼酎を飲んでいるだけで、実に気持ち良くくつろげるのだ。それはこの危ういシチュエーションなればこそのなせる心地よさなのだろう。
MSRのウイスパーライトとドラゴンフライ。私のオプティマスは出番なし。
そしてもうひとつの楽しみの「眠ること」がだんだん近づいてくる。
4シーズンのテントの中で極寒仕様のシュラフにもぐり込む。最初はシュラフの生地も冷たい。しかしだんだんと体温で暖められてきて、およそ外が氷点下の銀世界とは思えない。その昇天とも言える(ちょっとヤバイ?)感覚はテントの外が厳しい気象条件であればあるほどに逆に高まってくる。
秋口とかのキャンプなら体温でテントの中の室温も暖まるのだが、流石にこの日の外気温だと暖まらない。シュラフの中にアタマまですっぽり入って、あとは雪が降ろうがヤリが降ろうが(ヤリは困る。突き抜ける!)なんでも来いだ。

時折風でテントが揺らされる。タープに積もった雪をのけた方がいいかなぁ。ああでももうシュラフから出たくない。折角暖まったのに熱が逃げちゃうし。
ちょっとすいません、あなたそりゃどういう連想ですか? どうやら雪の降り方も落ち着いたようで・・。

Y本が私の名を呼ぶ声で目が覚めた。
「雪降っとるよ」と、その声には焦りが感じられた。むむっと、ニンフから脱皮するダンのようにシュラフからはい出ると(更にはケースから出るカディスのようにテントからはい出ると)ボルボのウィンターモードを凌駕するかの如くの積雪に、もちろん暑い訳でもないのにじわっと変な汗が出た。すぐには来ないであろう前の道路の除雪は期待できず、車が走行が出来なくなるまで雪が積もってしまう前にここから脱出しなければならない。
雪は全く朝食の支度で忙しい事なんかおかまいなしで(あたりまえか)遠慮なくじゃんじゃか降ってきた。
時間は計らなかったが、多分私のキャンプ経験で最速の後片づけもそこそこに、ボルボのラゲッジスペースにドサッと荷物を詰め込んで、目に見えて積雪の増えて行くキャンプ地をあとにした。
間違いない、埋まっちょります。
ものの十数分、峠を降りるとなんと青空が広がっているではないか。路面の雪も消えている。振り返ると、今しがた降りてきた峠の上は白くかすんで見えない。まだまだ降っているようだ。
まるでさっきまでの雪煙(ホワイトスモーク)の中での片づけの格闘が夢だったみたいに現実感がない。周囲の状況の変化の早さにアタマがついて行けないみたいだ。
帰ってからもうイッペンシュラフで寝ちゃおうか?
おしまい