其の百八十八  カディスとセッジ
禁漁になってから何本フライを巻いたか、数えてみた。
七本だ。
約四ヶ月で七本か。まあそんなもんかなあ。
とは言え年を越したら解禁まではあっという間だ。そろそろ巻き足しておかないとって思い始める時期になってきた。
本当に切羽詰まると簡単で堅牢、視認性と浮力重視のパターンを量産体勢に入る。
でもそういうフライばっかりじゃちょっとね。まだ時期的に余裕があるからと、少し考えてみた。
年の瀬にフライなぞ巻いてみる。
実用的なフライはやっぱり切羽詰まった時に巻くようなやつが一番なのはわかっている。
ライズを狙うフライは別として、それ以外はそういう実用フライだけあればいいとも言えるが、それだけだとやっぱり面白くない。
ちゃんと釣りにも使えて、でもタイイングする時も事務的に作るんじゃあない楽しめるフライを巻いてみようと思った。
そうなるとやっぱりクラシカルなパターンか。シンセティックのマテリアルをあまり使わないで、自然のものや古くから用いられているマテリアルをいにしえの様々な技法を駆使して巻いていく。
シンセティックに慣れているから、扱いが難しく巻きとめるのにもその手順がかなり面倒だったりする。でもその面倒さが今となっては新鮮に感じたりもする。
スペックルド・セッジはウィングに斑点模様のピーコッククイルを使うところから名付けられた。
ピーコックはなかったのでターキーで代用して巻いてみた。
クイルのロールドウィングにコンドルのボディ。これだけでも十分クラシカルな雰囲気が出る。
それに加えて「セッジ」という名前がいい。
セッジの定義は様々だが、ほぼカディスと同義語のようだ。
カディスは現代的な気がするが、セッジはナチュラルマテリアルで巻いたフライに似合う気がする。
エルクへアよりは羽の雰囲気を出しているが。
エルクへアカディスやCDCカディスなど、最近のフライは「マテリアル名+似せる虫の名前」というルールでフライのネーミングを決定する事が多い。
確かに往年の名フライのようにもっと奥深くいろんな歴史的背景を取り込んだ名前を、今つけようと思うと気恥ずかしいところがある。
現代のフライは質実剛健、実用主義なのだし、名前に格調とかそういうものを求めることもないだろうから、「マテリアル+虫」ルールで十分だろう。
昔からあるフライなら昔につけられた名前だから、今巻いて使っても当時の名前を出して「○○で釣った」と言っても違和感はない。
「シルバーセッジ」はこれもまたクイルのフラットウィングをもつクラシカルなパターンだ。
ボディは白のフロスにシルバーティンセルのリブ。更にボディハックルと往年の雰囲気満々だ。
この名前にこのマテリアル。そして完成のスタイル。面倒なタイイング手順も「シルバーセッジだから」と納得できなくもない。
こういうフライで釣った一匹はちょっと違う、なんていう感傷めいたことが、本番の川に立つ時にまで僕の中にあるかどうかは別として、来年用にカディスだけでなくセッジも巻きためておこうか。
ドライフライなのに金属のリブを巻いています。