其の百九十  ダンの釣りと春の川
今回の更新分を作っている時点で、北部の積雪は70cmくらいになっていた。
雪の多い冬は春の川を育てるような気がして、僕としてはたくさん雪が降ったほうが期待が膨らむのだ。
解禁すぐはまだ荒れているかも知れないが、ちょっと落ち着いた頃になったら、穏やかな春の陽射しの川はやっぱりいいなあ。
そんな川ではなにを浮かべようか。カゲロウが飛ぶ時間になったらやはりそれにマッチしたフライをと思うのが心情だ。
これでないと釣れない状況ってのもあるんだよなあ。
カゲロウはやはりダンの釣りが印象深い。
ニンフから羽化し、劇的なその姿態の変化を完了したダンは、自身初めて水中から水上へ、さらには空中へと活動の場を移すのだ。
こんな変化は人間にだってない。人間が経験し得ないことをカゲロウはやってのける。
その水中から水上へのファーストコンタクトの姿態がダンなのだ。
彼らにとってもダンは特別な段階であるように思えてならない。せめてその形を似せさせてもらってフライを巻くのだから、できるかぎり丁寧に使う時のイメージを頭に置いて巻きたい。
ヤマメにしたって羽化途上のニンフや羽化したてのダンを狙わない手はない。
それは産卵のために川に遡上してくる鮭を狙うヒグマのように、羽化したダンを狙ってヤマメも激しくライズを始めるのだ。ダンも更にスピナーとなり産卵を始める。
熊が鮭を、ヤマメがダンを。双方とも産卵を控えた獲物を狙ってくると言う図式は同じだ。
それが自然界の連鎖の法則でもあるのだろうが、きびしいなあ。
その法則に従えば、春の川に備えてダンを巻くのはしごく当たり前ということになるな。
CDC自体に魚を誘う機能が備わっている気がする。
CDCダンなら簡単にダンとしての高効果のフライを巻く事ができる。小さいフライもなんとか巻けるから、全くもってありがたいマテリアルだ。
コンパラダンも好きなフライで、過去にはこれでないと釣れないライズを何回か経験している。
春の川にとって重要なポジションにあるダン。それを模したフライにも頼もしいパターンが考案され使い続けられている。
これだけ巻いときゃいいや、ってノリでパラシュートばっかりを巻くのとはちょっと気構えが変わると言うか、少し特別な思い入れを持ってタイイングしたくなるのがダンのフライだ。
パラシュートなら汎用性が高く、どんな季節どんな状況でも全くダメってことはあまりないだろう。
しかしダンは季節と状況を選ぶ。僕がバイスに向き、ダンを巻く時は、それを使う川を思い浮かべて巻いている。
ダンパターンはパラシュートと違って使う川が限定される。
それはやっぱり春の川だ。
エルクへアを切り取り、CDCをむしり、Sザキウィングを成形しながら、バイスの先にあるのはまだ風の冷たく、でも陽射しの柔らかい、そんな川だ。
初期型のSザキウィングも気に入って使ってます。