其の百十六  がんばる CDC
ふとCDCの羽根を一枚手に取ってみると、カゲロウの翅を連想するのに無理は無いように思う。
薄さ、軽さ、そして木の葉の葉脈のような翅の模様、それらの要素が一枚のCDCに盛り込まれている。
実際には束ねて巻き留めたりするから姿形は変わるが、素材が備える要素はなくならないから、間接的にでもカゲロウの翅を演出するのには十分な資質は含んだままだ。
一番軽くて一番がんばっているフライマテリアルはCDCかも知れない。
鳥の羽根で虫の翅を作る。ハネつながりではあるなあ。
カゲロウの翅の葉脈のような模様は、いくつかのフライウィング材でリアルに現わしている製品がある。
CDCを束ねてもあの模様にはならないが、細かな繊毛がランダムに束ねられた様は、カゲロウのあの翅の模様を遠巻きにではあるが、イメージさせるような気がする。
シャンクに巻き止めたCDCはその軽さとフックの重さの重量バランスで、見事に春のカゲロウになりすます。一瞬にして頭上を流れ去るフライだから、ヤマメの目にはウィングの細かな模様までは映らないかも知れないが、その残像はよりリアルなものになるに違いない。
確かにCDCの羽根はカゲロウの翅の連想させる。
シンセティックの浮力の強く耐久性のあるウィング材もいいのだけれど、CDCはひいき目なしに見てもより違和感のないあり方で水面に浮く。弱々しく頼りなげな感じがヤマメの捕食行動を妨げない。
エルクヘアやクイルとかの自然素材のマテリアルもウィングに使ったりするのだが、これらはどっちかというと硬質な感じではある。テレストリアルの季節になればなんの抵抗もないが、春先は釣り人もヤマメも慣れていない分、よりやさしいフライを使いたい。
まあ、全く持って人視線の勝手な言い分ではあるのだけれど、気分は大事でしょ、うん。
扇型に巻き止めたCDCは、机の上のバイスから川の流れの上へと舞台を移す。
部屋の中と比べるべくもないが、自然の川に流れるそれはなんともちっぽけで頼りない。それすらもリアルの要素のひとつなのだが、下手すりゃすぐに見失うはかなげなウィングのCDCが、きっと春のまだ寝ぼけたヤマメを誘い出すに違いない。
シンプルであればあるほど効果の期待できるのがCDC。