其の百二十  遅かったフック
いつ頃くらいだったか、T社の新しいフックを見た。確かT社のウェブサイトでだったと思う。
その形状はG社やV社がすでに発売している感じのもので、遅まきながらT社も追従したのだなとその時は思った。
きっとタイヤー達のニーズの高い形状なのだろうなあ。

ところがその後、いつまで経ってもそのフックは発売されないでいた。そして僕もそのうちフックのことは忘れてしまっていた。
往年の2487に似てると思ってたらずいぶん違いました(^_^;。
ひょっこり釣り具屋にフックが入荷したことを知り、のぞいてみた。
そのフックを見てちょっと意外だったのは、T社にしては珍しい光沢のある黒いフィニッシュだったからだ。ケースには BlackNickel とある。そしてこれまた予想以上のファインワイヤーでもあった。
さすがT社、そして最後発でのこの形のフックの発売なのだから、それなりに意気込みを感じる出来映えではあるかな。しかし如何せん、発売がちょっと遅いよなあ〜。
この形状のV社のフックはすでに買っていた。と言っても去年の話だが。
V社のフックはアイから始まってちょっとの間はシャンクが直線に近く、そこからぐい〜っとカーブしている。今回のT社のものは、アイからほんのわずか直線がありすぐに緩やかなカーブが始まっているところがV社のとの見た目の違いだった。
T社のウェブサイトを見ると今回の新型は「ヤマメ専用フック」とか「軽量ぶら下がりフックの決定版」とかのうたい文句になっていた。細軸やクロームメッキの理由などが書かれているが、もちろん釣りは鉤だけで決まるものではない。

でも新しいフックだと、巻いてみようかっていう気になるのは確かだ。タイイングのマンネリ化をどう脱するかは、長くこの釣りをやっている人たち共通の課題でもある(僕だけ??(^_^;)
やはりこの形状ならアントでしょうか?
しかしやっぱり新製品がシーズン終盤で出るのはタイミングがずれているなあ。
特にウチらの地域は八月末で禁漁になってしまうのだ。このフックを買って帰った日、僕は取り急ぎアントパターンを何本か巻いた。
時節がらまずはテレストリアルを巻くことになるのだが、もうパラシュートパターンしか巻く気はなかった。単純にこのフックの形を一番生かせるパターンだろうと思ったのだ。同じくパラシュートでボディにピーコックを巻いただけのもの。これもテレストリアルのバリアントっぽい感じだし、すぐに巻けるのがいい。なんならただの黒のダビング材だけで巻いても十分戦力にはなるだろう。
パラパラッと五本くらい巻いて、僕はタイイングするのをやめた。
禁漁間際で新しいフックで慌ててフライを巻くのがなんだか面白く感じられなかったからだ。
折角の新製品のフックなのだから、もっと楽しみながら巻くのがいい。それなら禁漁になって来年の釣りをイメージしながらゆっくり巻く方がきっと相応しい。
夏のフライだけではなく、春先のいろんなパターンだってこのフックは巻ける。
いつのまにかこのフックを眺めながらそんな想いを巡らせていた。
テレストリアルにこだわらず、自由な発想でいろいろと巻けそうです。