其の百二十二  忘れていた釣り
今年の釣りで撮ったデジカメの画像を整理していた。
釣りに行った日ごとにフォルダを作り、その日の画像をまとめて入れているのだ。
いくらか画像を見返したりしているうちに、ホームページの釣行記の数とフォルダの数が合わないのに気が付いた。
フォルダの数がひとつ多いのだ。確かに行った釣りの全てをホームページで更新している訳ではないが、今年も更新していない釣行があったとは思っていなかった。
記憶には残っていなくてもデジカメのデータはちゃんとありました。
フォルダ名は「6月10日」となっている。梅雨入り前のころの日曜日だ。フォルダには29の画像が入っていた。その中には川の様子とヤマメを写した画像があった。
川の画像は一目見てどこの川かすぐにわかった。梅雨入り前、確かにこの川へ行ったな。だんだん思い出してきた。
その川は深い谷あいの支流のひとつで、その時は入り口の林道脇にすでに先行者の車が停まっていて、そのままもっと奥の上流部へ入ったのだ。
川の流れには覚えはあるのですが・・・。
どんより曇った空は陽の光を通さず、川筋はずいぶんと薄暗かった。今にも雨の落ちてきそうな空はなんとなく釣りのノリを鈍らせた。
案の定フライに出てくるヤマメはいなかった。水はどちらかというと少なめで、それ以上にヤマメは少ないように感じた。支流の入り口から釣り上がった方が良い釣りが出来る可能性が高かったように思えてならないが、こればっかりはどうしようもない。
とは言えいくらか釣っていくうちにはチビヤマメくらいは出てきたりするもんだが、この日は本当に一匹のチビもその姿を見せることはなかった。
この支流は去年も釣りに来ていた。その時はどうだったか。確か今回と同じような様子だったのではないか。時期が悪いのか水が少ない時だからか。
毎回こんなならなんでこの日もここへ来たのだろうか。
上流ではなく下流部に期待していたからだろうか。

目の前に滝が現れた。落差はさほどでもないが滝つぼプールが大きくて深い。
雨が降り出すと水のヴェールに包み込まれるようにひっそりします。
両岸が切り立っているので落差がちょっとの割には巻くのがかなり難しい。きっとここを巻くのを諦めて上の林道へ上がる人が多いのだろう。それでも僕はどうにかこうにかその滝を越えて更に上流へフライを投じた。
滝上の最初のポイントでこの日最初のヤマメが水面にひるがえった。
また思い出した。僕はきっとこの巻くのが困難な滝の上で、釣り人のプレッシャーを受けずにひっそりと暮らしているヤマメがいることを知っていたのだ。
そこにいるとわかっているヤマメ。きっと来年も行くだろうなあ。