其の百二十五  水辺の近況 「初秋のライズ」
「アユ釣りですか?」
え〜、そりゃあないじゃろー。釣り竿も持ってないのに〜。
「フライフィッシングのホームページを作ってて、今は禁漁になったから、川の様子を見にきて、それをネタに更新するんです」・・・。
なんて言う訳ない。言ってもあちらは「?」だろう。
川原でたたずんでいた僕は会釈して散策の夫婦連れをやりすごした。
紅葉にはまだ早い、でも気温十八度の肌寒いくらいの渓だった。
フラットなプールでいきなり水面が・・。
バックパックにカメラと食料と飲み物を詰め込んで、川原に降りた。
ヤマメの姿は見れるかなと流れに目を凝らすが、見えない。
少し川原を歩いてみた。いつもはウェーダーをはいているからなんでもないところでも、普通の靴だと難しい。バランスがくずれてよろけてばっかりだ。
濡れたくないという制約が、いつも以上に歩くのを困難にしているようだ。

ちょっと歩いてすぐ引き返すつもりでいたが、岸辺の岩や斜面を伝ってずいぶん奥まで歩いてきてしまった。この川はたまたまそうなのだろうが、岸辺を伝ってなんとか歩いて行ける。
そして歩きながら流れを見続けていたが、やはりヤマメは見えなかった。
禁漁期間のヤマメウォッチングは僕の中では恒例のイベントになっていた。
ウェーダーなしでどこまで歩けるか〜?
堰堤まで歩いて、上の道路へあがった。なかなかいいポイントの多い流れだった。来年はここへ入ってみるかな。
しかし、思うようにヤマメは見れず、久々の渓も川歩きだけか。

下流にあるキャンプ場から別の支流に降りてみた。
降りてすぐのところにある平らなプールでライズが起こった。
すぐにそれがヤマメであること、そしてえらく小さいことがわかった。
チビヤマメ出現。水面を凝視してます。
見ていると実に頻繁にライズしている。ぴょんぴょん飛び跳ねている感じだ。ただの運動のつもりなのだろうか。
よく見るとちょこまか動いては水面に飛び出すチビヤマメと、じっと定位していてあまり動かないチビヤマメがいる。
上流からユスリカのような白い極小の虫が水面を滑るように下ってきた。それが定位しているチビヤマメのところまでくると、あっという間にそのユスリカをチビヤマメがくわえて水中へ戻った。
ヤマメジャ〜ンプ、流し撮りィ〜。
気が付くとプールのそこら中でライズしている。パフォーマンスジャンプもあれば成魚さながらの捕食ライズもある。
釣りの時と違うのはとにかくちっこいヤマメばかりということだ。
しかしなんとも頼もしい限りだ。このプールから、徐々に上流へとチビたちが旅立っていく。
ひとつ落ち込みを越えるたび、ひとまわり大きくたくましくなっていくのだろう。
陽は傾き、ライズの数は更に増えていった。
やまないライズ。またひとつ。