其の百三十一  フライバトル Round 3 「Celebrate Flies」
「釣り仲間のTn君の結婚祝いに、みんなでフライをあげることにした」
mGからのメールがあったのはひと月ほど前だった。
人のためにフライを巻く。これはさすがに経験がないなあ。
「自分が良く使うフライを」ということなので、それならと思い浮かぶのは、やっぱりパラシュートとかスタンダードパターンとかだ。
数名がTn君のために巻くのだが、ほかのメンバーはどんなのを巻くんだろう??
僕はカーフテールのアダムスパラシュートとクイルゴードン。スタンダードです。
釣り場で仲間のフライを見ることはなくはないが、あんまりじっくりとは見たことがない。
あらためてほかの人がどんなフライを使っているのか。また、細部を見ればどんな巻き方をしているのかがわかるだろう。
その巻き方には巻き手の性格とかも現れてくるかもしれない。

ある週末、M川氏の工房を訪ねた。ここにお祝いフライが集まることになっているのだ。
フライはM川氏の使い込んだボックスに収められていた。
tsu君のフライ。このエルクウィングのテレストリアルはイヤラシイ(^_^;
tsu君のパラシュート。まあおきれいなハックルの巻き方だこと。 K.b のエルクへアカディス。ついに彼もタイイングまでするようになったかあ。
ボックスを見てみて最初に目に付いたのがtsu君のフライだ。
使用状況を想定した説明書きがくっついている。それにしても丁寧に巻かれたフライだ。彼はこんなフライを巻くタイプだったか。
パラシュートのハックルはファイバーの乱れも少なく放射状に伸びている。テレストリアルパターンは夏に効きそうな感じだ。
なんだかこのフライ結んでキャストするtsu君の釣り姿が容易に想像できるようだ。
山K氏得意のチェルノブイリアントとラムズウールのパターン。
「このラバーレッグがええんじゃあ」と山K氏。
積み重ねてきた釣行が裏付ける実績と自信がそう言っているようだ。
一方ラムズウールはフロータントなしでも十分釣りになる浮力を誇る。このふたつのフライを見てもやはり山Kさんの釣りスタイルが見えてくる。
しかしここまで顕著にタイイングに釣りそのものが現れるとは思っていなかった。
mGは赤い腹がお好きですなあ。
mGのエルクヘアカディスはボディハックルがない。そしてワンポイントの赤いアブドメン。
きっとこのフライでかなりのヤマメを釣ったに違いない。だからこのパターンに執着しているのだろう。
誰でも良い思いをしたことのあるフライパターンはいつもフライボックスに入れているはずだ。
Yのハックルマーチブラウンもその典型で、視認性は良くないから投げても見えない。でも落ちたあたりのライズに合わせるとたいがい釣れてしまう。そんな経験をしたら、やはりフライボックスからは外せないだろう。
このハックルマーチブラウン、Yがずいぶん前にS社のパターンブックで見て、「かっこいい!」と思って巻いたのが出会いだった。僕も同様で、当時はいくらか巻いて釣りに使ったことがある。僕の場合はまだ良い場面に巡り合えていないが、来春用に久しぶりに巻いてみたくなった。
パートリッジのまばら加減、荒さ具合が絶妙です。 こちらは夏のゴギ必釣パターン。
M川氏のパターンもその釣果が効果を実証済みだ。
でもこのM川氏のフライを僕が使ったら果たして使いこなせるだろうか?
M川氏のフライだけではない。どの人のフライもそれぞれに個々の癖や個性が強く出ている。それは性格であったり釣りのやり方・好みであったり。
自分の釣りのスタイル・フライの使い方に合わせて巻くのがタイイングなのだから、ほかの人が巻いたフライにはすんなり入り込めないのは、実はしごく自然なことのような気がする。
とはいえ自分以外の手によるフライを見ていると、いろいろ新たに知ることも多い。ひょっとしたら人のフライで釣りをすることでも、新しい発見がありうるかも知れない。
ともあれこうやって集まったフライたちがひとつのボックスに収まり、Tn君の手に渡った。
彼がこの先このフライたちをどう使うのかはわからない。
まあもらったからといって、釣りで→
結んだ→投げた→引っ掛かった→なくした じゃあ申し訳ないから、別の意味でなかなか使いづらいことはあろうよ。
しかしTn君。もし目の前で尺ヤマメがライズしていて、フライが今回もらったものしかなかったとしたら、その時は躊躇せず使いなさい。
(釣れなくても責任もちませんが(^_^;)
キメはやっぱりM川パターンで。パラリと柔らかなハックルがヤマメを誘うのです。