其の百三十五  雪の峠にて
この冬最大の寒波は年末年始にしっかりかぶってしまった。
僕は早めの帰省で往路の雪は回避できた。
それにしても日本海側の天候はどうだ。まるで上空に台風が停滞しているかのように常時強風が吹き続けている。

携帯の天気予報で見てみると瀬戸内側はなんとも穏やかな天気のようだった。
日本海からの強風はすべて中国山地が壁になって受け止めているのだろう。
帰省に合わせてどか雪。スタッドレスタイヤで良かったわあσ(^_^;)
その壁になっている中国山地の西の端が僕のシーズン中のテリトリーになるのだが、ここまで厳しい環境の中で生き延びるヤマメやゴギを思うと、なんだか頼もしい。
確かに温暖化の影響はあろうけど、毎年一回はこんな大雪は降っているはずだ。
雪は積もり、やがて溶けて雪解け水となって川へ流れ込む。この雪代が入らないと、一度眠った川が目覚めないような気がする。
雪代の流れ込みが新たなシーズンへ向けての始まり、のような。
ホワイトアウトとまではいかないが、かなり視界の悪い峠道。
昨年の放流会で放したヤマメたちも今ごろはこの雪の降る谷あいの川でひたすら春を待っているだろう。ヤマメだけでなく春に羽化する虫たちも暖かい陽射しを待っている。
カゲロウのニンフ達は幼虫の期間が一年を超えるものもある。セミほどではないにしろ、冷たい水の流れの中で羽化の時を待ち続けるのはどんな気持ちなんだろう?
この冬を超えれば水ぬるむ春がやって来る。そうしたらただ水底をはい回っていただけの生活から一変、自由に飛び回れるのだ。
雪の降りしきる川の中のニンフは、春が来たら自分が飛べることを知っているのだろうか?
そしてなにより一番首を長くして待っているのが釣り人だ。
今年の解禁こそはと手ぐすね引いて待ちかまえている。
もし雪深い冬ならば、春の川をあれこれ想像してタイイングしながら待つのも一興だなあ。
待っている時だからこそ想像力も働いて、いろんなパターンを巻く意欲が沸いてくる。
僕は寒いのがいやだから、寒い休日に部屋でタイイングするのは、全く持ってもってこいの暇つぶしにもなるのだ。
時折やむとあらためて銀世界が目に飛び込んでくる。
大変なのは復路だった。
世界遺産の町を過ぎる頃には前がよく見えなくなるくらいの横殴りの雪になった。
路面も圧雪状態で時折わだちにハンドルがとられてしまう。
でも予想通り、中国山地を越えたら雪も風も止み、陽射しさえ見えてきた。

これから二ヶ月でフライを巻きためよう。きっと解禁になったらたいしてフライなんて巻きやしない。
待っている時だからこそ意欲が沸くのだ。
川面に落ちる雪も土手に積もる雪も、解禁後の釣りに結びついて行く。