其の百四十一  水辺の近況 「mGと大氷柱の里」
小規模なスモークアウト、じゃないなんだ?、ホワイトアウトか。
とにかく一瞬でも前が見えなくなると、ちょっとこわいね。
はき替えたばかりのスタッドレスタイヤのmGの車で北部を目指したのは土曜日の午後三時過ぎだった。
インターチェンジを降りた頃はまだ思ったほど雪はなく、連日の北の雪便り(アメダスの積雪量)からイメージしていた豪雪とのギャップは拍子抜けだった。
しかし徐々に標高を上げていくと、だんだん白い世界が広がり始めた。
GR Digitalで雪原の川を撮るmG。
ほんの少しの、吹雪の合間に。
屋根の雪下ろしはテレビでなら見たことがあります。 カジキの角!? いやナウマン象の牙か??
西中国山地の県境主陵を越える頃には吹雪となった。本当にミニホワイトアウトだ。軽装で車の外に出でもしたら、遭難しかねない。
主陵の峰の裾野には平原が広がり、集落がある。そこから流れ出る川が解禁後の僕らの釣りのフィールドの源になっている。
しかし、川はおろか道でさえ満足に見えない状況。このあたりの様子の写真を載せているブログとかを見て予想はしていたが、これは東北や北海道の田舎町ではないかと錯覚してもおかしくない。
外に出ている人はほとんどおらず、時折車が通るだけ。あとは近くのスキー場のゲレンデの照明だけが人の気配を感じられるものだった。
タイヤをはき替えたmGは、解禁を二週間後に控えて、しかし落ち着いていた。ちょっと山へ行ってみようと言い出したのも彼だ。
北部の積雪は周知の事実だし、彼はこのオフシーズン、海にハマりっぱなしだ。
「解禁になってもまだまだ当分は本気モードにはならんですわぃ」
と、こぼす。
確かに二月中旬でこの有り様なら、三月解禁のマッチザハッチの釣りは危ぶまれるのは明らかだ。
ただこんな解禁は初めてではない。
有効視界数メートル!? 正にホワイトアウト。
解禁で雪があったのはおととしだったか。道にはなくても山肌や河原にはしっかり残っていて、川の水温も痛いくらいに冷たかった。
まだ風はなく晴れていたからなんとか釣りになったが、これがこの日の天気みたいだったら、1時間もたないでギブアップですな。
積雪よりもその日の降る降らない、風の強さとかの方が釣りに響く。釣りというより、釣り人の意欲をくじけさせるのに多大な影響を及ぼす。
それを想像するとmGの始動の鈍さもわからないではない。
氷柱の通りを歩く。積雪も尋常ではない。
不意に吹雪が止んだ。
雪原の集落を進むと橋があった。路肩に車を停め、川の様子を見てみると、魚の気配など感じられそうもなかった。
しかし、この雪に埋もれた川でさえ、それを見ただけで流れにフライを投じる自分を想像してしまう。
解禁後もしこの川にヤマメがいたなら、たとえこんな大雪でも関係はない。考えられる手段を駆使して攻めるまでだ。
そしてそれはmGも同じようで、明らかに解禁に向けてモードを切り替える準備が整った顔をしていた。
凍てつく川。カゲロウがハッチし、ヤマメがライズするのはあとどれくらい先か?
最後に雲の切れ間から雪原に沈む夕日が見えた。