其の百四十二  湾岸奔走
その強風にただならぬ気配を感じて沖合を見ると、一人の男がボードに乗り高速で水面を走っている。
セイルはついていない。動力源はなんだ??っと空に目を転じると、確かにそこには凧が。
(カイトサーフィン??)
う〜む、初めて見た。
この強風ならあの速度は頷ける。しかしこれでは釣りは無理だな。
天気はいいのに一向に風は止まない。フライラインは空しくあおられ続けていた。
岸際の岩礁に勝負を掛けるフライマンには船釣りは関係ないな( ̄^ ̄)。
カイトサーフィンポイントに見切りをつけて、すぐさま湾岸の有料道路へ。
沿岸を東へ移動する。少し外海から遮られた内湾を目指した。天気は変わらず上々だが、よく見ると海上に白波が立っている。かなりの風には違いない。
有料道路の走行はものの3分程度だ。すぐに料金所を降りて沿岸の県道を東へ進む。
心なしかさっきの場所よりも穏やかな天候のような感じがする。ここなら釣れるか??
湾岸に沿うようにつけられた道路。
ポイント移動は迅速です。
移動した場所は隣にもと遊園地だった場所がある。海岸の護岸をポイントを探して歩いていると雪が降り出した。
空を見るときれいな青空、でも雪か。どうやら少し山の方で降った雪が風でここまで流されているようだ。期待していたほど風は弱まっていない。
ロッドを継ごうとしていたら人が何人か歩いてこちらに向かってきている。よく見るとなんだかおかしな格好をしていた。
むむむ、コスプレ? なんだ??
晴れているのに雪が降る。不思議な海。
またまた移動。さらに湾岸を東へ。最初のカイトサーフィンポイントが真正面に見える所まで来てしまった。今度の場所は砂浜がある。砂浜の途切れた所に堤防があるからそこしか釣りはできまい。
さっきのコスプレ集団は遊園地跡地でそれ系の集まりがあったようだが、あの出で立ちでまわりを歩かれたらさすがに落ち着いてロッドは振れない。
強風とコスプレに追いやられてここまできた。見渡す海岸には砂浜で掃除をしているおじさんがひとりいるだけだった。よし、今度こそ。
猫の耳の人とか宇宙服みたいな洋服の人とかいました(^_^;
堤防の砂浜と反対側はいい感じの岩礁帯になっていた。マラブー魚皮ダンベルアイパターンを投げて見ると一発でメバルが食いついた。しかしすぐバレてしまった。
なんだ幸先がいいぞ、と思う反面、今のメバルの反応にピンとくるものがあった。フライの着水と同時にひったくるように食いついてきたその動きは・・・。
ハッとして後ろを振り向くと、砂浜の掃除おじさんが堤防の上から僕を見ていた。その人は外人だった。耳にヘッドフォンをしている。なんだ??
外人氏はすぐに砂浜に戻っていった。そしてまた砂浜を掃いている。
いや違う。掃いているのではなかった。金属のバーを砂の上で左右にゆっくり振っている。バーの先端には円形のプレートがついている。
そしてヘッドフォン。どうやら金属探知器のようだ。
う〜む、ビーチコーミングにしてはずいぶんと仰々しい出で立ちだなあ。まさか対人地雷を探しているわけではないだろうが。
そうこうしているうちにまた強風が吹き荒れ出した。追いつかれたか。
Mr.金属探知器氏はなにを探しているのか??
もう場所変えする気力はない。強風の中重たいフライを投げ続けた。投げ続けながら思った。
(メバルはヤマメだなあ。あのフライに飛びつく早さ。少々大きめのフライにも食いつくどう猛さ。見切ったら二度と出てこないところもスレる早さも、だ。)
そう言えば僕は海だからと、ポイントを荒らさないようにとか魚に気付かれないようにとか、そういうことには気をつけなかった。相手がヤマメと同等ならそういうことも必要だったか。
というより、そんなことに今ごろ気付くのはちょっと遅すぎですな。これでこの前はよく昼間に25cmのメバルが釣れたもんだ。
波は高くなる一方で、もはやメバルは釣れる気がしない。
これがヤマメなら居れば最初の一投で決まることが多い。何度粘っても居ない場所では歯が立たない。
Mr.金属探知器氏はまだ砂浜を探査している。僕にはあそこまで粘るパワーはないなあ。

目の前の海のその先の遥か彼方に、僕がその年の半分を費やす川をいだく山々が小さく見えている。
その山はまだ白く雪をかぶっていた。
海から山は見えても、川から海は見せませんσ(^_^;)