其の百四十四  ソードとアイ、甲冑をまとう
梅雨の手前くらいからフライボックスの中身がテレストリアルへとシフトする。
暑さ、クモの巣、魚のスレ具合いと、条件は厳しくなるばかり。雨の降り方も釣果を大きく左右するし、釣行先の選定もまた。
そんな中でフライパターンの役割は、春先のそれと全く違わない。それゆえこれからの季節のフライを巻くためには、マテリアルもマッチさせていく必要がある。
フライならではのマテリアル。
やっぱりピーコックだなあ。
今年もまたこの怪しい羽根を買う。
夏のゴギを撃ち抜くために。
黄金虫なんかの甲虫をイメージすると、ピーコックは色は似ている。
しかし甲虫の甲羅は体を覆う鎧(よろい)のような感じなので、ピーコックハールやソードのような一本一本が生えているものの集合体とはだいぶ違う。
しかし水面や水中を流れるフライを想像する時に、黄金虫のリアルなディテールを再現したコロッとしたかたまりを流しても、なんか釣れそうもない。
いや、実際にはそういうパターンを作って流しても釣れるのだろうが、より魚を誘うのはもっとゆらゆら動きのあるフライかなあって、陸の上の人の立場ではそう思うのだ。
以前はウレタンフォームや光沢のあるシートを使ってビートルのパターンを巻いたりしていた。
それは甲虫が水面に浮けば確かにこうなるっていう浮き方で浮く。
でもだんだんそういうフライを使わなくなってきた。
釣れる釣れないは別にして、なんとなくそういう人工的な材料でかためたフライは味も素っ気もないようで、使っていて面白くないと思い始めたからだ。
同じ使うならやっぱり自分が納得できるフライがいいから。
ソードと名がつくだけに戦闘的なイメージがあるマテリアルだ。
アレキサンドラなどのウエットフライのように古くから使われていたピーコックは、フライの歴史の裏付けもあるということになるし、やはり自分で納得できるマテリアルであることに間違いない。
ウレタンみたいな堅牢性はなく使い続けるとちぎれたりもするけれど、そこがまたフライらしくていい。要するにこの羽根が気に入っていると言うことか。
久々にピーコックを使ってフライを巻いてみる。ボディとウィングにそれぞれアイとソードを使って。
ボディには蛍光フロスのセンターバンド。ムネアカオオアリとビートルのあいのこのようなフライが出来たが、これもまたテレストリアルパターンの自由度かな。
結果この時期からピーコックを使ったフライを巻き始めるから、いやおうがなしに暑い時のフライっていうイメージが植え付けられる。
そしてこの濃いグリーンの甲冑をまとったフライが夏の渓によく似合う。
それは夏の渓魚の食性とちょっと違う経緯ではあるけれど、ティペットに結ぶ時には釣れることを信じて疑わない。
さてもう少し巻きためて梅雨明けの渓へ出掛けるために備えるとするかな。
ソードのスペントウィングパターンを巻こう。
こりゃ釣れるんでないかい?