其の百四十六  夏の釣りのことなど
今年の夏は雨が降らない。
どれくらい前からか、猛暑日なんて言葉も生まれて、35度越えの最高気温と対峙する夏が何度か過ぎた。
そんな気温でも、雨さえ降ってくれたらまだなんとか釣りになる。川が息を吹き返し、ヤマメやゴギが元気を取り戻す。
つらいクモの巣やブヨの攻撃も、耐え忍べばヤマメが飛び出すと思えば我慢もできるってものだ。
それがその可能性が断たれたのなら、ただのつらい川歩きになってしまう。
ダンからスピナーへの脱皮殼。
翅もそのまま残るんだね〜。
なにを思ってこんな状況でも渓へ出掛けるのか?それはひとえにこの地方は八月いっぱいで禁漁になってしまうからだ。
まだ九月があるのなら、暑い季節はちょっとお休みしとこうか、とも思うんだろうけど、暑いうちに終わってしまうのだから、うかうかしてはいられない。
それにこの季節は一発大物が出る事もある。この可能性も見過ごせない。
こんな理由で、下手すりゃ一匹釣れるかどうかの状況でも出掛けてしまう。
ヤマメはヒレだけでなく体もうっすら光を透す。
夏は何とはなしに印象深いものもある。
漁期の最後というのも要素になっているが、春先から始まった釣りシーズンの行き着く先、という感じがするのだ。
水の流れる方向とは逆向きに、上流へ上流へと季節とともに釣り場を移していく。そしてきっとヤマメ達も気温が上がるにつれ住み家を上流へ移しているのだというイメージがある。
夏に向けて魚の生息域と釣り人の活動フィールドがぴったりシンクロしていて、そこに自然と行き着いていると思える。
汗だくになり体力も奪われてヘトヘトになりながらロッドを振る。
たまらず木陰に腰を下ろして休んでいる時にふっと涼風が吹き抜けると、これはもう天国に勝る気持ち良さだ。
つらい状況だからこそ、この風の気持ちよさが際立つ。
渓にいる時がずっとこんな気持ちよさではないのだが、もちろんこれも期待している。
そうすると、帰りに寄る温泉ももはや外せない。これも汗をかけばかくほど気持ちよさが倍増する仕掛けになっている。
ゴギのヒレは逞しく野性味に溢れている。
いろいろな思いがあるが、最後はやっぱり釣れなければ面白くない。その意味で今年の水の少なさは強敵だ。
今週も雨が降ってないから週末は家にいようか、なんて思っても本当にそうしたらやっぱり後悔するんだと思う。
条件の悪さに無鉄砲に挑戦するというのではなく、そこはちゃんと場所と時間を考えて、降水の有無も調べた上で夏の渓に向き合う。
こんなキビシイ時だからこそ、幸運にもヤマメやゴギを見れたら、それが一番の清涼剤になるに違いない。
そこに水が流れているだけで、やっぱり出掛けるかあ。