其の百五十六  水辺の近況 「柿の木と空中散歩」
谷あいにいると見通しが悪くてもどこだかすぐわかるが
見通しのいい場所では方向がわからなくなる(^_^;
つづら折れの林道はぐいぐいと標高を上げていく。
高原の里に隣接するスキー場のあるK山へ上がってみることにした。
頂上まで林道が通っているこの山は、その眺望が素晴らしい。mGの車は細い林道のカーブをするりと登っていく。途中カメラマンらしき人の車とすれ違ったっきり対向車はなく、すっと視界が開けたかと思うと、そこは頂上だった。
何年ぶりかでここにやってきたが紅葉の時期は初めてで、見下ろす山肌が見たことのない色に染まっていてしばし見とれてしまった。
360度とはいかないが、180度以上は視界が開けている。
mGは三脚を立ててパノラマ写真を撮るのに没頭している。
それにしてもこんな眺望を思う存分満喫できることはそうそうない。これこそ正に空中散歩という訳だ。
だが、あらためてみると今見えている山々がどの辺りなのか、いまいちピンとこない。
僕たちがいつも釣りをしているエリアはどの辺りなのか?
風景と地図とを頭の中で重ね合わせてみるがうまくいかない。
mG自慢の写真機材たち。
釣りに写真にと彼も忙しい(^_^;
山頂にあるスキー場のリフト乗り場で昼ご飯にした。
この景色だけで十分おかずになるなあ。
ただなかなか見えているエリアの解明が進まない。
それでもなんとか山々の稜線を辿り、あそこかここかと思いを巡らせる。
でもいつものように谷あいにいればそこがどこかなんて考えなくてもわかるのに、こんな見通しのいい場所に立つと、逆にどこがどこだかわからなくなってしまうのも不思議といえば不思議だ。
ソバも食べたんだけど、それとは別にちゃんと昼ご飯は食べるのです。
不意にmGの携帯が鳴った。
釣り仲間の山K氏からだった。ここから近い川にある柿の木の写真を撮りに向かっていると言う。
ようやく眼下の景色の場所が分かり出していて、山K氏の向かっている川のある辺りが見えていた。
僕たちもそこへ向かうことにして山頂をあとにした。
途中で紅葉の写真を撮りつつ、今度はぐいぐいと標高を下げていく。僕は心地よい揺れに、途中から寝てしまった。
目が覚めると見覚えのある川がそこにあった。
下りの林道で紅葉を撮る。光が良くなってきた。
山K氏はすでに柿の木の撮影体勢に入っていた。どうやら陽射し待ちのようだった。
ついさっきまでこの辺りを上空から見下ろしていたのに、十数分後にはその場所に立っているのもこれまた不思議な感覚だ。
そしてすぐ横の川には小さなアマゴもいた。
拡大と縮小と言えばいいか、いや違うか。広角とマクロ、みたいな関係と言ったほうがしっくりくるような。
ちょっと水の乏しい川の横で僕たちは陽射しを待った。
この川にも小さなアマゴの元気よく泳ぐ姿が見れました。
やわらかく陽が射してきた。
空も青さが戻り、柿のオレンジと青がよく映える。早速みんな写真を撮り始めた。
この日はすっかり秋をまとった山のてっぺんから水辺まで、たっぷり堪能できたなあ。
川のアマゴは浅い流れをまだ行ったり来たりしている。
いずれこの辺りも白く雪が降り積もる。今年は寒くなるのが早いような気がするから、雪もたくさん降るかも知れない。
そして白い雪の向こうには、いつも解禁の春が見えているような気がする。
川を見下ろす柿の木。雪の季節も実はついたままで。