其の百六十八  バンブーロッド・スクランブル
普通二月はまだまだ寒いのだから、急に冷え込んできたとしてもそれは普通だな。
北部の雪はかろうじて残っているようだが、それは例年と比べるとやっぱり少ない。
いくら積雪が記録的なものだったとしても、根雪になる間もなく消えてしまっては結局暖冬だったと同じことだ。
本来まだ寒くて当たり前の時期だから寒の戻りとは言わないのだろうけど、この寒さの戻りでまっとうな根雪でも、と思ってみたがそれも淡い期待でしかない。
さて、発進体勢は万全ですが・・・。
そんな二月もあと一週間を切った。それは即ち解禁までの残り日数もそういうことになる。
いつもの年のように、たっぷりとフライをタイイングした訳でもなく、魚券を買った以外はとりたててこれといった準備をする訳でもない。
ただ今年はひとつ違っていた。
新しいロッドが手元にある。M川ロッドを作ってもらったのだ。
去年の年末の釣り具屋での展示会で見たロッドが脳裏に焼き付いていた。そして年明け、M川氏の工房を訪ねた。
新しいロッドのイメージは固まっていたから、話は早かった。
話が決まればあとは作ってもらうだけ。そして数週間が過ぎ、ロッドは僕の手元にやってきた。
新しいロッドで解禁を迎える。こんなことは過去にもあっただろうか。グラファイトロッドでならあったかもしれないなあ。
でもそれとはちょっと訳が違う。今回は新たに作ってもらったのだ。このタイミングでのロッドの作製は、M川氏にとっても当然解禁を目前に控えてのことだから、その思いが込められるに違いない(と勝手に思い込んでいますが(^_^;)
ナチュラルのブランクを使い続けていたから、今回のブランクは新鮮だ。
リールシートもトチの木にしてもらい、重厚で引き締まった感じの雰囲気がとても気に入っている。
アクションも今まで持っていたM川ロッドとちょっと違えてもらった。まだラインを乗せて振ってみていないが、その振った感触がすでに腕に伝わってくるようだ。
思えば去年の年末の展示会の時から、すでに作ってもらおうと心に決めていたのかも知れないなあ。
その年最初の釣りは、いつものことだが半年ぶりの渓の空気が瑞々しい。
流れ下る水もその音も、かすかな芽吹きの匂いまでもが、春に寝ぼけた僕の脳を刺激する。
そして新しいロッドの振り心地はきっと更に刺激を加速されてくれるに違いない。
まだ春浅い川で振るロッド、流れるフライ、そして半年ぶりのヤマメが顔を出す。
もうなにも考える必要はない。思いのままに釣りをするだけでいい。春は目前だ。