其の百七十  十年目のエルクヘア
あれ、このエルクちょっと違うなっと思った。
巻き止めてスレッドをぎゅっとしてもあんまりフレアしない。
フレアしないことが品質の善し悪しの判断材料になるかどうかだが、少なくとも巻きやすいのは間違いない。
ちょっと前、数年ぶりにエルクヘアを買った。少し色の濃いめでこれからの季節にいいかなって思ったのだ。
エルクへアにはいろいろと思うところもあるが、一番には質の良いエルクになかなか出会わなかったことだ。
このマテリアルとの付き合いも十年以上になるなあ。
ハックルとかCDCとか、ドライフライのマテリアルはいろいろある。
ハックルならファイバーの張りとか、CDCなら油分がどうかとかがあるかもしれないが、それらの質が釣りの時にそんなに気になった事はない。
しかしエルクへアの場合、その質は釣りの場面で大いに気になる。
最初に結んでフロータントを施してその効果がしっかり持続している間は問題ない。
しかし、質の悪いエルクはかなり早いうちに水を吸い始めて沈みだすのだ。
触っただけでは分からないからやっかいだなあ。
水を吸ったエルクは指先でつまんでみると、水が絞り出されるしふやけてふにゃふにゃしている。
そりゃあ水につけて使っているのだから、ある程度はどんなものでもそうなるのは仕方のないことだ。
ただそういうエルクはタイイング時にスレッドで締めつけた時、なんとなくわかるような気がする。フレアのし具合から、ああこりゃあ柔らかいエルクだなとか、これはすぐに水を吸いそうだなとか。
それが今回買ったエルクはなんか吸水性があまりないようなそんな印象を受けた。
そもそもエルクへアは中空で、中に空気が入っているからよく浮くのだと思うので、その意味では今回のエルクは浮力という点ではいまいちとも言えるか。
ただ中空の浮力が強いエルクが一旦水を吸ってしまったら、逆にいとも簡単に沈んでしまう事も想像に難くない。使用開始時とある程度使ってとで、浮力が大きく変わってしまうのは、ちょっと使いづらいということになる。
実際このエルクで巻いたフライで釣りをした感想はというと、ある程度使ってもあまりふやけて柔らかくなることはない、というものだった。
フライを始めた頃、エルクは当たり外れがあるから、ダメなエルクを買ったらそれは捨てて新しく買うべきだと、友達に教えられた。
しかしなかなかそう思い切りよく買ったマテリアルをすぐには捨てられず、使い続けてしまう。
十年経って、やっと満足の行くエルクに出会えたのは遅過ぎるけど、これからはこのエルクで巻いたフライに期待できそうだ。
エルクの質も大事だが、相変わらずアイがつぶれるなあ(>_<)