其の百七十二  テレストリアルのボックス
梅雨に入ったのに雨が降らないなあ。気温は連日28度近くにまでいっているから、もはや夏と言っていい。
ちょっと釣りに行っていない間に山もすっかり様子は変わっているんだろうなあ。
ふと気付くと、ベストのポケットにはまだ春先からのカゲロウパターンのフライの詰まったフライボックスしか入っていない。
そりゃ夏の川にこんなボックスでもそれしかないならその中のフライで釣りをするしかないが、まだ家にいるうちからあきらめちゃあまずいよな、やっぱり。
陸生昆虫専用のボックス。禁漁まではこれで。
引き出しをごそごそかき回していたら、ホイットレーの黒いフライボックスが出てきた。
中途半端にフライが入っているが、どうも一度しまい込んでそのまま忘れてしまっていたようだ。
そのボックスをテレストリアル専用にしようと決めた。今までなんとなくいくつかのボックスにばらけて入れていたテレストリアルフライを集めてこのボックスに入れてみた。
なんとか3分の1埋まったかどうかで、内容的にも使うかどうか微妙なフライが多い。
こりゃあちょっと気合いを入れてタイイングをしなければならないなあ。
春のフライと夏のフライではずいぶんと様子が違うのだが、モデルの虫をイメージして巻くと言うところは同じだ。
でもカゲロウの場合、明らかに目の前で飛んだり水際でハッチしたダンが群れていたりと、現場の虫とボックスの中のフライとの関係性が強い。
テレストリアルはビートルが流れていて、ビートルパターンで釣れた、ということは必ずしもある訳ではない。
ビートルが流れていなくてもビートルパターンで釣れるし、ビートルが流れていてもアントでも釣れる。
テレストリアルのボックスは色も形も様々でにぎやかだ。
おおよそアントでもビートルでもホッパーだろうと、釣れる時ならそこまでパターンにシビアにはならないかなあと思う。
色とサイズはいくらかは影響はあるだろうけど、そこを押さえてさえおけば用意したどのフライでも釣れない事はないのがテレストリアルの釣りと言えそうだ。
フライボックスのフォームに巻きたてのフライを刺していく時、その一本一本が即戦力。どれにも外れがない密度の高い内容という意識が出てくる。
ホイットレーの黒いフライボックスが、その実弾のようなテレストリアルフライで徐々に埋まって重くなっていく。あとはひと雨降ってくれさえすれば、準備万端のこいつの出番だな。