其の百七十三  フライとインク
ペリカンの万年筆を買った時、同じくペリカンのボトルインクを買った。
ブルーブラックという色だ。一番使いやすそうな色だし、特別突出した感じもしない。
気兼ねなく使い始めて何日か経った時、あるブログで万年筆のインクの色をあれこれ探しているという記事を見つけた。
その記事ではその人の好みの茶色のインクを探していた。
その茶色のインク、というのにピンときた。
茶色のインクを使ってみたくなったのだ。
いかにもインクのボトルという感じのペリカンのボトル。
前に書いた万年筆とロッドの関係。随所にある共通点。ならばインクはさしずめフライそのものだろうか。
実際好みのインクを探し始めた時、どうも思い通りに行かない壁に突き当たった。
思い通りに行かない、それこそ思い通りに釣れない(僕だけ?(・_・;))ことに共通している。
最初のブルーブラックのインクは全く問題なく使えていた。黒とは違った少し青の入った僅かに薄い感じがとても気に入った。
それはそれとして、どうしても欲しくなった茶色のインク。過去に茶色のインクなんてボールペンでもなんでも、使った事がなかったから余計に興味が沸いたのだ。
茶色のインクはペリカン純正ではなく、同じドイツのドクターヤンセンというメーカーのものにしてみた。ペリカンと違って、色のバリエーションが実に多彩で選ぶのにも楽しいからだ。
その中で選んだベートーベンのラベルの濃い茶色のインク。
突き当たった壁というのはこのインクでモレスキンに書いた時のインクの滲みと裏うつりだった。
もともとちょっと薄めの紙を使っているモレスキンだから、インクによってはこういうことはありうるが、ドクターヤンセンのインクのそれは、だいぶ滲みがある。
その茶色のインクでロディアに書いてみたら滲まない。ロディアの紙質ならたいていのインクはいけるだろうが、なんとかモレスキンに書きたい。それに濃くちょっと赤味もあるこのインクがいたく気に入ったし。
ドイツで作られたインクをイタリア製のガラス瓶に。
しばらく使っていたが、どうにも気になるので試しにペリカンの茶色も買ってみた。ブルーブラックからドクターヤンセンに入れ替えた時と同様に精製水で万年筆の内部を洗浄し、ペリカンの茶色を吸入した。
これならどうか? とモレスキンに書いてみたが、ペリカンの茶も滲んでしまった。うむむ。
果たして茶系のインクは黒やブルー系のインクよりも滲みやすいということがあるのだろうか。インクメーカーを変えても同様の傾向が出た。
さすがにもうひとつ別のメーカーの茶色のインクを試す気にはならないが、このインクの滲みに対するもどかしさは、目の前のライズを手持ちのフライを総動員しても全く歯が立たないのと似ているなあ、と僕は苦々しく思った。多岐にわたるインクと様々な紙質のノートとの組み合わせ。それはライズするヤマメの食性と結ぶフライがマッチするかどうか、に通ずる。
茶色のインクの使い勝手をしっくりマッチさせるのには、まだ時間がかかりそうだ。