其の百八十  水辺の近況 「元気な禁漁」
毎年恒例のペアリングの時期になったなあ、と思った。
また見に行ってみようと、デジカメを充電しながら、ふとその道のりを思う。
片道100Km以上はある。かなりの距離だ。
なんだかその行程を想像するだけでため息が出た。ちょっと遠いかなあ。
釣りでは平気で走った距離でも、オフシーズンになるとそこまで走る気になかなかならなくなってきた。
まあいつまでも同じ調子という訳にはいかないな。
紅葉もそろそろ始まりかけています。
せっかくの休みだから部屋でごろごろしていても勿体ないので、重い腰を上げて高速に乗った。
県北の様子を載せているブログを見たら、すでにペアリングは始まっているようで、ちょっと出遅れた感もある。
確か去年はゴギがペアになっているのは見れたがヤマメはいい感じのが見れなかった。
今年はどうか、ちょっと期待はできないかもしれないと思いながら毎年最初にのぞいてみるポイントへ向かった。
果たしてヤマメがいてくれるか?
里山の野焼き。少しずつ、冬を迎える準備が。
いつもの場所には小さなヤマメが泳いでいた。
さすがにちょっと写真を撮るほどの魚ではないが、それでもちゃんとヤマメが見れたことにホッとした。
小指ほどの大きさのヤマメだが、こいつはいつごろ生まれたヤツなんだろうか。ずいぶんとたくさん流れの中に見える。
来年の春にはそこそこの大きさになっていて、このあたりを思う存分泳ぎ回っているのだろうか。
と、流れを黒い影が走った。ヤマメ、しかもでかい。狭い流れを縦横無尽に走り回っている。
この泳ぎ方、見覚えがある。ペアリングの頃のやたら落ち着きのない雄のヤマメの泳ぎ方だ。
せっか右岸から左岸へ、上流へ行ったかと思うと今度は下流へ。
すごいスピードで泳ぎ回っている。なんという落ち着きのなさ。
ペアの雌は川底が砂地の一角にいる小さなヤマメのようだ。
雄ヤマメはたまに戻って傍らに寄り添う風だが、ちょっと経つとまたどこかへ行ってしまう。
他の雄ヤマメを追い散らしているようだが、そこまで追い立てなくてもよかろうに。
かわいそうに雌ヤマメはひとりで尾ひれをぶるぶるさせて産卵床作りを黙々とやっている。
今年も仲良さそうに、と思ったら・・・。
この上で産卵するヤマメはいるのか? 突然のお客様。秋のハッチシーズンだな。
雄ヤマメはいつまでほかのヤマメを追い散らしているんだ?と、探してみると、なんだ? なんだかその雄ヤマメは別の雌といっしょにゆらゆら泳いでるじゃないか。
え〜、じゃあひとりで健気に産卵床を掘っている彼女はどうするつもり?
こいつ〜、気が多いのは結構だがたいがいにせんと、誰からも相手にされんようになるぞ。
まあ人間でもいるよな、こういうヤツ。
ひょっとしたらこれが雄の本能なのか?
派手なライズリング。魚はちっちゃいですが。
節操のない雄ヤマメを見送り、ちょっと場所を移動した。
移動した先ですぐにライズを目にした。小さいヤマメが派手に水面に飛び出していた。
流れの中には小さいのや中くらいのヤマメがスイスイと泳いでいる。そしてまたライズ。
それは目の前だけではなかった。目を凝らすともっと上流にも下流にもいる。
さっきの雄ヤマメもここのヤマメも元気だ。ここまで遠い道のりだったけど、ヤマメたちを見ていたら僕もなんだか元気になってきた。
日の傾いた川に、まだライズは続く。