その39  解禁前の川の午後とサラの川
この冬は降るとどさっと来てからに、晴れるとぬくぬくで積もりに積もった雪でさえアッという間に溶けて行く。もっと平準化できんもんかなぁと思うも、どこかバランスが崩れているような粗い気象の移ろいはそれでもきちんと春を届けてくれるようで。
それは早春の花とか季節を感じさせる自然のナニガシカではなくて、釣り具屋に届いた今年の遊漁券だったりするのだが、これはこれでしっかり時節モノのひとつかなぁーなどと妙にナットク。

ノーマルタイヤでも行けそうなところまでと、年間に何回乗り降りするのかイッペン数えてみないとな、って毎回思うインターチェンジを降りると、南側の斜面は全く雪はない。しかしそこは山のことよ、油断しなさんな。影に入ればつるんつるんよ、きっと。
冬の晴れた午後はコントラストが強い。
やはりとビビったのは峠から降りてくる対向車がやたらチェーンをつけていて、パーキングへ入ればまたまたチェーン脱着中の車が目立つから。
無理はすまいとそこから歩いてすぐ横の川をのぞいてみた。河原はまだ白く雪が残り、水位はきっと少なめなのだろうけど、これは心配すまい。
よもやの魚影は見当たらないが、冬の空気の凛とした緊張感からか、川もパリッとした張りのようなものを感じた。
”糊の効いたシーツ”とでも例えれば解りやすい(解りにくい!?)だろうか。雪が白いからすぐそんな連想に結びついたのかも知れないが、まだくたびれてない新しい気持ち良さが解禁前の川には、ある。
それにしてもどうだろう、この晴天は。なんか雪焼けしそうだ。風もなく穏やかな川筋に、マット敷いて昼寝したいなぁ。
河原をおおった雪の上にズボズボと足跡をつけながら歩いていると、小動物の足跡が目にとまる。更によく目を凝らすと雪の上には小さな虫がいるのも見えてくる。ユスリカのアダルトだった。
おやおや、どうやらもうそろそろ川の方も準備が整いつつあるようでって、虫の立場では解禁は関係ないか。ハッチしたい時にするんだよねぇ。白い雪の上ではユスリカの体形もよく見える。本と同じだった。
「帰ってミッジアダルトのパターンでも巻いてみっかなぁ」なんてちっとはバイスに向かう気も出てきたかな。

名前の知らない鳥が川筋を飛んでった。ああ、やっぱりまっサラの川って気持ちいい。まっサラのっていう定義は自分でもよく解らないけど、今日の川はそういう気分にさせてくれた。
ちょっと川の様子を見に来たつもりがホントにちょっとだけになったけど、なにか手のひらにはちょっとではないモノが熱くあるような気がする。
解禁前に無理やり気持ちを駆り立てることもないのだけれど、こんなふうににわかに感情の奮い立つ季節がまたやって来たんだなーって改めて実感が湧いてきた。
よし、帰って#14のフックでミッジでも巻くか(そりゃミッジとは言わんか!?)
雪が溶ければもう少し水も増えるかな。