その43  鋏(Scissors)の話
例年よりかなり早い梅雨入り宣言が発表された中国地方の、ところがどっこい降るって言っときながら降らない週末、結局土日とも釣りに出掛けそびれてしまった。
車に積みっぱなしのキャンプ道具をようやく整理して、これまたようやく冬物のフリースを片づけて、近所に出来た大型ショッピングモールの駐車場待ちの車の列を尻目に釣り具屋へ向かうのは、
「行きゃぁ良かったかも知れないのになぁ」とずるずると後悔の念を引きずる釣り師の唯一の拠り所だ(?)
タイイングツールの中でもボビンホルダーと肩を並べる使用頻度のシザース。
「なんかそそるモンはないかなぁ」と店に入るなり目新しいものを物色するのも、物欲に走るフライマンとしては正当な行動パターンである(??)。
で、この日はハサミが目に停まった。C社のタイイングシザースでスイス製とある。ブレードはカーブしているタイプで、ステンレスの質感も上々だ。
3300円というしっかりした値段に逆に購入意欲をかき立てられ、年明けに買ったT社のウィングバーナー(あんまり使ってないなぁ)以来のツールの購入となった。

ふと、ハサミについて考えてみた。実はこやつこそタイイングの主役なんではないのかなーってね。
なんだかんだでいつの間にか増えてしまう。
カーブしたブレードのハサミは前にも買ったことはあるが、今は使っていない。イマイチ気に入らなかったのと、カーブでないとっていう場面がなかったからそうなってしまったのだが、実のところどうだろう。
カーブのブレードを生かせるのは反り返ったカタチを利用して先端で一本のファイバーを切るだとか、他のファイバーをかわして切る場合だろう。ストレートよりも切りたい対象に融通が効くのは確かで、その分慣れは必要だが、一旦慣れてしまうとストレートを使えなくなってしまうかも知れない。
真ん中がカーブ、両端がストレートブレード。
今回のハサミはブレードの先端も薄く、何年も愛用しているT社のファインポイントシザースに匹敵する鋭さで、常用するに耐えうるクォリティだ。
もうひとつ、フィンガーホールもハサミの機能としては軽視できない。このハサミはエルゴノミクスデザインを採用し、ホールの内面が柔らかい曲面となっていて、指を通した時の触感もしっくりくる。

やはり愛用しているT社の鍛造製法のハサミはホールが大きめで、ブレードも長い。こいつも「角度で切る」感覚が指から伝わってきて、切ることに特化した道具の極みである。
ブレード形状でそれぞれに役割を分担させる。タイイングでのハサミはなんとも贅沢な使い方をしているようだ。
C社のフィンガーホールは厚みがあり内側の曲面も使用感に影響する。
ボビンホルダーはスレッドを保持するというどちらかというと間接的な仕事を請け負っているが、ハサミは「切る」という能動的な作業を担う。
道具の持つ役割の中ではこれが一番重要な役どころではないだろうか?
タイイングは「巻く」という作業が強く印象付いているが、「切る」も同じくらいに毛ばり一本を構成するプロセスのひとつだろう。
いろいろ買っても実のところ使うハサミは決まってくる。それならちょっとフンパツして良いものを買ったってイイだろうって、自分に言い訳できそうな気もするが・・。
T社の鍛造製法のハサミもいい値段だ。でもきっと長く使える。