其の五十一  小羽根で踊る Feather Flies
当然私がフライフィッシングを始めた時からCDCはあった。
Cal de canard(カモのお尻)の頭文字を取ったこのマテリアルは今では全く当たり前にショップに並び、私たちはそれを買ってタイイングし、ティペットに結びつけている。
私がフライを始めた頃は、タイイングにはまだCDCは使わずに、もっとスタンダードなパターンに執着していた。
クイルウィングやヘアウィング、そしてそれらをシンセティックマテリアルに置き換えたりと、どちらかというと堅牢なフライを巻く事に専念していた。
メーカーによりファイバーの密度はかなりの差がある。
堅牢なフライなら形が崩れずに長く使い続けられるという、率直な発想だったのだろう。
それはあながち間違いではないが、タイイングビギナーのおちいりがちな「マテリアルの使い過ぎ」はかなり顕著だった。
ハックルはもったいないから先っちょまで巻いていたし、エルクヘアは浮力よりも自重が勝ってしまうほどシャンクの上に載せていた。
その結果、なにやらやたらボリューム感たっぷりの中年太りフライが出来上がった。
(なんか、着水したら魚が散りそう)って思ってしまう出来栄えに、この一本に費やしたマテリアルと時間を哀れみつつ、次の一本もおんなじようなのしか巻けない。
それでも重量バランスを少しずつ意識してのタイイングが出来だした頃、いつの間にかマテリアルの引き出しにはCDCの袋が入っていた。
CDCフェザーのその儚さ(はかなさ)はメイフライが水面にかろうじて浮いている態(さま)を絶妙に表現出来る素材だ。

それでもCDCを使い始めてからしばらくの間は、シビアなライズ狙いのマッチパターンでしかCDCを使う事はなかった。CDCはそういうフライにのみ使うモノだと思い込んでいたのだ。
ほんわりと水面に浮くその姿を想像して巻く。
私の渓流のフライフィッシングのスタイルは釣り上がりが多い。
釣り上がりながら、出くわしたライズにはそう、そういうフライに登場願うのだが、頻度はそう多くはない。だからおのずとCDCフライも出番が少なく、私的にはCDCパターンはなんだか絵に描いた餅的なフライになっていた。
更にはCDCは初期浮力は高いが、次第に水分を含み、一旦ずっぽり濡れると復活まで時間がかかる、なんて先入観まで手伝って、本当に手が伸びなくなっていた。
しかし、最近各フライ用品メーカーから出ているシリコン系フロータントの登場で、その概念は払拭された。釣り上がりにCDCパターンを使う、という今までなかった発想が現実のものとなった。
浮力にはいろいろな条件があるが、CDCパターンはほかのマテリアルのフライより間違いなく軽い。
その軽さはやはり水面の虫達をリアルに演出する。風が吹けば小羽根のウィングは柔らかくそよぐ。ただ軽いというだけでなんだか魚が釣れそうな気がする。

ああ、まいったなぁ。CDCでフライ巻いちゃって・・。来年は釣れちゃうよ。どうしよう・・・、なんて、夜な夜な妄想にふける怪しいフライマンの週末は過ぎて行く(!?)
このオフシーズンに巻いたフライ。CDCを使ったものが多くなった。