其の七十七  エルクヘア 雑感
初めて巻いたフライはなんだったかなぁ。忘れてしまった。
最初の頃はマテリアルがそろってないからありあわせの材料で、およそ○○パターンとは思えないようなシロモノを巻いていたんだろう。
それでもタイイングが楽しくて、あきれるほどに多くのフライを巻いていた。

巻いたフライの不細工さを思い出すと、当時の新鮮で強烈なフライフィッシングの入り口に立った時の印象が蘇ってくる。
ここにきて、エルクのそのあり方が変わってきた。
時が経って不必要なくらいにツールもマテリアルもそろい、それに反してフライはあまり巻かなくなってきた。一夜でフライボックスを満杯にする(そりゃないか)あのパワーはどこへ行ったのだろうか?久々にバイスのホコリを吹き払いテーブルの上も片づけると、不意に使い古しのヘアウィングカディスが出てきた。パウダーフロータント(じゃない、これもホコリ)にまみれている。
そういや、なんでだか今年はこいつを良く使った。明日釣りに行こうかって言う時は、たいがいエルクウィングパターンを2,3本巻いてフライボックスの足しにした。
ココ一番の、と思ってか、それともこいつが一番無難と考えて選んだのか。
以前は後者だったと思う。でも最近は、前者の意味合いでご参入いただくというか、そういう心理状態なのだ。
CDCのように繊細ではなく、どちらかと言うとブッシーで大ざっぱな印象のエルクヘアをウィングにまとったこのフライ。
それでも魚を誘う能力はCDCやほかのマテリアルに決して引けを取らない、頼もしさが感じられてならない。

タイイングの容易さからチョイスしているとも言えるが、それならCDCパターンもそうだ。
エルクの場合は吸水性やヘアのくせなど、当たり外れがあるが、いいのに当たれば、あの5cm×5cmくらいのスキンに生えているだけで、相当巻けるだろうから。
中空のヘアは軽さ、浮力ともに問題ない。
タイイングする時の、スキンから切り取りスタッカーをとんとんやって毛先をそろえて、シャンクの上に乗せるその一連の作業も楽しい。
ついついたくさん乗せすぎてしまいがちだが、それを我慢して浮力と自重のほどよい量が乗せられたら、実にバランスのいいフライに仕上がる。
頑丈そうな感じもいい。巻いてすぐのきちっとした状態よりも、荒っぽく使ってくしゃくしゃになったくらいがよけいに釣れそうな気がする。
獣毛の持つ潜在的な野生の狩猟の血が水面から魚を狙っているような、ヘア一本一本にそのDNAが組み込まれているような、エルクウィングのフライにはそんな秘めた気配さえ感じる(考えすぎ?)。
毛ばりの「毛」という語感からは、髪の毛やハックルのファイバーのような細いイメージが連想される。
フライを始めてからエルクヘアのような「毛」の存在を知った。
しかし、エルクのようなものが本当に毛ばりの「毛」らしさを持っているような気がしてきた。
今年、エルクウィングパターンを多用するようになったのは、ごくごく自然に向かった先だったのかも知れない。
次の週末、釣具屋にロッキーマウンテンのナチュラルゴールドのエルクでも買いに行こうか。
実はエルクヘアも柔らかく光を透過するのです。