其の八十八  春の兆し、釣具屋から
今年は昨年末の寒波もあり、いまだに北部は多いところで150cmの積雪がありで、解禁が近づいてる〜っていう盛り上がりはそんなにはない。
カレンダーを見ればあと何日かはすぐわかるのだし、仲間内でも「そろそろだね〜」って話さない訳でもない。
それでも気持ちの高まりは、話しをして一気に・・・というだけではない。

僕はなにで解禁を強く感じるだろうか?
この品数は・・・。まあ、十分だわな。
釣具屋に遊漁券が入荷すると、まあそんな雰囲気にはなってくる。
毎年買う川の年券はほぼ決まっていて、4ヶ所くらいだろうか。買う時にはその漁協のエリアの川をイメージする。
あそこの川、あそこの支流、あの堰堤はどうだろう? 
すると春ならあそこの枝垂れ桜はとか、少し季節が進むとまたあの新緑が目に飛び込んでくるとか、夏はあの渓の涼風を浴びに行こうとか。
直接釣りに関係ないことまでもが、脳内にわき出てくる。
釣りってきっと、釣りだけじゃない。
釣具メーカーの新製品が出るのも臨戦態勢に入ったカンジで、気分をあおられる。
細かなアクセサリー類やマテリアル、ちょっと値段が張るが新しいロッドやリールなど。ウェーディングシューズのフェルトもチェックしておかねばならない。
リーダーやティペットは鮮度の高いものにしておくのも大事だ。

こんな道具たちを渓で使うことを想像し、徐々に気持ちが盛り上がってくる。
釣り人は毎年、解禁前のそのトキメキだけは初心者に戻るのだ。
新しい商品はこれまたテンションが上がる。
あとはもう僕の勝手な先入観なのかも知れない。
釣具屋の空気もがすでに春を迎える準備をしているように感じる。訪れるお客さんの顔も解禁後の渓を向いている。買う商品も全てが新たなシーズンを見据えている。普段は巻かない毛ばりもここぞとばかりに巻くのだろう。
この時期釣具屋をのぞくと、カレンダーで日付を確認するよりもよっぽど解禁前の雰囲気を強く味わえる。僕はそれも目的で、釣具屋へ足を運ぶのだ。
また、渓の事を考えてみる。
今ごろあそこの川はどうなっているだろう。まだ深い雪に閉ざされているだろうが、釣りシーズンの景色しか見た事がないからなかなかイメージが湧かない。
頭に浮かぶのは春浅い淡い色合いや新緑の強いコントラストや盛夏のまぶしい渓の様子ばかりだ。

いずれその景色の中に僕も溶け込んでいく。