其の九十 バッキングを巻く夜
会社を定時で退社するとびっくりする。
外が明るいのだ。
五時をちょっと回ればすぐに暗くなっていたのは、ついこの前までの事だったはず。
それが、もうすっかり陽が長くなっていた。それはすなわち春がそこまで来ている事を示す要素のひとつだ。

すでに遊漁券も買い、ウェーディングシューズのメンテナンスも怠りない。
足りないのはオフシーズンのタイイングのアウトプットで・・、これは十本に満たないが。
今年新調したバッキングライン。グレーにしてみました。
使い古したフライラインを新しいものに交換することにした。
そうなるとついでにバッキングラインも替えてしまおうか、という運びになる。
何年も渓流に通っているが、バッキングラインを引き出した経験はない。最初に買ってリールに巻いて以来、全く日の目を見ていないことになる。
まあ、フライラインをリールに収めるための調整用ということで巻いているのだから、釣りのファイトで引き出されるなんてありえない渓流では、別段普通の状況だろう。
それでもフライライン同様、バッキングラインも濡れるし汚れていく。
白いラインなら汚れが目立ったり、変色したりはよくある。
それならばとこちらも新しくしたのだが、やはりというか気分一新というカンジだ。

ロッドやリールを新しくしたらもちろんだが、ラインだけでもこれだけ気持ちが高揚するとは、ちょっと意外だった。
それは、目前の解禁に直結しているからにほかならない。
ナニを思ってラインを巻き替えるのか?
川で引っ張り出す事のないバッキングラインが、唯一その存在感をアピールするのは、こういった解禁前の道具の手入れだったりの時しかないようだ。
しかし、それがこの釣りをする一番気持ちの昂ぶる時期であるが故、裏方に徹するアイテムであっても逆に印象深い。

日没の時間が遅くなり、今年もそういう時期になった。
リールをヒト巻きするごとに、またあの川のあの光景が浮かび上がる。
巻き直したフライライン。バッキングはちょっとしか見えません。