其の九十三  ゴギ釣り、ヤマメ釣り
釣りに出掛ける前夜から
「明日は何を釣りに行こうか」と考えたりはする。
僕の住む地域で渓流に出掛けるなら、対象魚はヤマメかアマゴかゴギになる。
種類は少ないが、それが物足りなく思うことはない(それ以外の魚がたくさん釣れるから(??))
さすがに解禁当初はヤマメ狙いがほとんどだ。目指す川も里のそれで、春の里ヤマメがシーズンの始まりを告げるものとなる。
ヤマメの川でもどうしてもアマゴが混じることはあるが、なかなか正真正銘のヤマメを、となると難しくなってきている。
そんなこんなでヤマメやアマゴを釣りながら、雪は消え桜は咲き緑が色付いて来出す頃。
その年最初にゴギを釣るのはいつごろだろうか?
「今日は今年最初のゴギ釣りだあ〜」って感じで家を出ることはない。
その年最初のゴギは狙って釣るのではなく、思わぬところから釣れちゃったってのが本当のところだ。
それを機に、じんわりとその年のゴギ釣りモードに入っていくことになる。
当然行き先の川もゴギの川へとシフトする。いい時期に当たれば数えるのが面倒になるくらいにゴギが釣れたりする。梅雨の前後がその転換期になるだろう。
その日の釣りが最初っからゴギ狙いに絞られてくると、釣りに向かう心構えもゴギっぽい。それはゴギの方が簡単に釣れる、ということではない。
事実最近のゴギときたら、ヤマメよりも神経質なヤツがいる。ただ、ゴギのその愛嬌のある顔からは何か釣り手の方をリラックスさせる癒し系(癒しか?)の雰囲気があるのだ、たぶん。
梅雨が明け、山塊や渓がじりじりと焼かれる季節になると、ゴギ釣りも最盛期になる。
源流帯や細い支流にまで入り込み、生まれたての源流の水に洗われたゴギを釣る。その斑紋は色も形もくっきりとしていて、その川で生まれ育ったことが容易に想像できる。
解禁当初に釣れるヤマメの中には放流間もないとすぐにわかる魚体もいるが、それと比べるとこの季節がここまでゴギを磨き上げたような気さえしてくる。

そんな時期に不意にヤマメが顔を出す。少し、その顔立ちも引きの感触も遠のいていた。
もちろん放流魚だけのはずはなく、この時期まで生き抜いたそのたくましさと風貌に、しばし見とれてしまう。
のんびり屋でありながら、すこしせっかちなところもあります。
季節を絡めてヤマメを釣りゴギを釣り。
雪の残る里を辿り、桜を過ぎて新緑を浴びる。そして渓を覆う色濃い緑の中に身を置きながら、またゴギを、そしてヤマメを。