其の九十六  フライベストの期待と重さ
「うぉ、なんじゃこのベスト」
Yが声を上げた。
「ぶち重いじゃん」
「そう? みんなこんなモンだと思ってた」
「なんで? なにが入っとるん?」
「え〜・・・・っと、い、いろいろ」

自分のフライベストを人が持つ機会はそんなにはない。人のフライベストを持ってみる機会も同じだ。
フライベストの基準重量なんてある訳ないが、明らかに僕のは重かった。
くたくたのベスト。ウェアではなく道具箱。
何が一番重いかと言えば、カメラのレンズである。
レンズを装着したカメラは胸に固定するバッグに入れるので、ベストには交換レンズだけを入れる。これが重たい。
カメラには28mmの広角レンズをつけているから、ベストの背中に防水の袋に入れた100mmのマクロレンズを入れている。
中身の入った500mlのペットボトルよりちょっと重いくらいだろうか。
これに食料のおにぎりと500mlのペットボトルのお茶、カメラのミニ三脚が加わって背中の荷物の全てとなる。
フライボックスをどれだけ持っていくか。
悩ましいところだ。
前面側はフライマンらしいものばかりだ(あたりまえか、フライベストだ)。
数はこちら側が勝るが小物ばかりで、その中で一番かさばるのはやはりフライボックスだろう。
いったいフライボックスを何個持っていくか。僕はどちらかというとフライボックスの中身をある程度のジャンル分けをしている。CDCパターン、ニンフ用、ミッジ用、スタンダードやパラシュートなどのドライフライのボックスと。
ひとつのボックスにある程度の種類を網羅させて入れておけば、ひとつかふたつ持っていけば済むのだが、そうはしておらず、更に欲も出ていくつものボックスをむりやりポケットに詰め込むことになる。
釣り仲間のT君に釣具屋でばったり会った。ちょうど今回分の更新をしている時期だったので、ベストの重さのことを聞いてみた。
僕のような交換レンズは入れていないが、やはりフライボックスが一番重いらしい。しかも彼は常時七個のボックスを入れていると言うのだ。
春先からテレストリアル専用ボックスも入っていると、さらっと言った。
「心配性なんですよ・・・」と照れ臭そうにそうも言った。
T君のベストのフライボックス。
七個入っとります(^.^;)
T君は心配性がこうじてフライボックスを詰め込んでいるが、僕は欲深いが故に必要以上に荷物を持ち込む。
欲の深さがフライベストの重さに比例するのかどうか。それは期待の重さと言い換えることもできる。
明日の釣りを思い描き、ベストのポケットにあれこれ詰め込む。でも期待しすぎるのは考えものだ。
ベストも重くなるばっかりだし。

洗濯するためにポケットの中身を全部出した。
からのベストの驚くほどの軽さが、禁漁になったことを実感させた。
そしてお洗濯〜。お疲れさま!