其の九十七  フライバトル Round 2
Zさんのところに遊びに行ったのは、台風13号が沖縄あたりにいる時だった。
週明けに最接近する台風の予想進路図を見てZさんはため息をついた。まだ釣りの出来るエリアの釣行を計画していたらしい。
「荷物の準備はしたが、フライがないことに気がついた。それで慌てて巻き出したが、台風が来よるから巻いて無駄だと思ったンよ」

残念そうなZさんのフライボックスを見せてもらうと、晩夏の釣りを制する黒いフライが入っていた。
足の本数ほどくらいの、パラリと薄いハックル。
一回転半くらいしか巻いてなさそうなハックルにあまり密でないフォーム(スポンジ?)で作られたパラシュートアントは、きっと水面を浮いたり沈んだりを繰り返しながら流されるのだろう。
見たことはないが本物のアリもそんな流れ方をするのではないか、と思った。

僕の場合、アントはボディはダビング材でハックルは3〜4回転は巻く。
ハックルから上はしっかり浮かせて、ボディは強制的に半沈みにするという感じだ。
僕のアントは半沈みを強調してます。
カゲロウもカディスもテレストリアルも、やはりバリバリに浮いているよりは危うい感じで辛うじて水面にしがみついているくらいのほうが、魚の目から見てもそれらしいような気はする。
その点で、僕のフライはZさんのフライよりも釣れないような気もするが、僕がZさんのフライを使いこなせるかというと、それは難しいかもしれない。
フライは巻き手が使ってこそその機能がいかんなく発揮される。それは巻き手が使うことが前提のフライである、ということだ。
断念した釣行用のフライをさらに見せてもらう。ヒップアップボディのかわいいエルクウィングのフォームカディスもあった。夏ならではのパターンだ。
フックのベント部が水面下に深い角度で沈むので、夏場のスレた魚のフッキング性向上に一役買いそうだ。
実際梅雨明けから禁漁までは、渋い反応のアタックに苦労する。ハリが掛かってもバレる頻度はかなり多い。
こんなときに懐の深いフライパターンは頼もしい。こいつは真似させてもらいます、Zさん(^o^)。
命名「ヒップアップ・テレカディス」なんてどお?
これからは来シーズンに備えて春先のパターンを巻きためる日々になりそうだが、夏のフライをああでもないこうでもないと考えるのは、夏の釣りをしたすぐあとが印象に強く残っている。
夏が終わったすぐあとだからこそ、その釣りの感触が手にあるうちに夏のフライの改善バージョンを巻いておくチャンスなのかもしれない。
一年後の夏の釣りの前になって慌てて巻き出しても、その感触から一番遠ざかっているタイミングだから、的を得たフライはすぐには巻けそうもないし。

と、そうは思っても過ぎた夏の釣りのフライよりも、来るべき来シーズンのフライタイイングに力が入るのは、無理ないかな?(^o^)