iOSを5.1にアップデートした。
これで音声認識のSiriが日本語で使えるようになった。
さっそくあれこれ話しかける。
明日の天気を聞くと、よくないと言う。どう良くないのだ?
単に天気が悪いのが釣りに悪いとは限らんぞ。そこのところはどうなんだ?
Siri 「・・・私には理解できません。」
ま、そりゃそうだな。
ワンチャンスさえあればいい。それを期待して僕はまた西へ向かう事にした。
Siriよ、どういった具合によくないのだ?
「クラシック聴くなら "鱒" じゃろう」とM川氏。
「そ、そうですね」と僕。
あとからそそくさとiPhoneで調べると、うむむ、シューベルトか。
という訳で前夜にYouTubeで聴いた "鱒" の旋律を鼻歌のレパートリーにして高速を走る。
先週よりは雪は減っている。でも空模様はSiriの言う通りあまり良くなかった。
それでもインターチェンジを降り目的の川に近づくと、風は穏やかで陽射しもあってまあまあの条件のようだ。
川を観察。この時はまだのんびりしていた。
どこをやろうかと迷ったが、まずはよく行く支流へ。
きっと解禁直後からさぞかし釣り人ラッシュに沸いたことだろう。それは想像がつく。
それでもヤマメが全て釣り切られるなんてことはないだろうと、僕はこれまたよく入る場所から川へ降りた。
30分後、僕は川を上がって車に乗った。まさかとは思うが本当に釣り切られるなんて、・・・ある訳ない。たぶん。
そのあともいくつかの場所を探るが反応はなかった。
追われるように小渓流に分け入って。
時折強風が吹いていたが、長く続くものではなかった。先週は強風に手こずったが今回は大丈夫そうだと思っていた。
ただ気温が低い。最初の陽射しも隠れてしまった。Siri の言っていた良くない天気とはこのことだったのだろう。
"鱒" のメロディを口ずさみながら次の川へ向かった。どちらかと言うと昼を過ぎてからの方に期待しているので、僕は気分的には余裕を持っていた。
あちこちでゆっくりしていたので昼をだいぶ回った。この川で少し様子が変わってきた。車の中でおにぎりを食べていると、突然ゴッと音がした。強い風が吹いたのだ。だがそう長く続くものでもないだろうと思ったが、一向に止む気配はなかった。
14時46分、iPhoneに設定していたアラームが鳴った。僕は黙祷をした。
手がかじかみ始めた。
濡れたラインを持つ手が濡れ、風が手から体温を奪う。
ティペットが木に絡まった。やむを得ず引っ張って切った。この状況下でティペットをやり替えると考えると気が遠くなる。
ハイロフトのフリースは先週は汗ばむくらいだったが今日はこれでも寒い。
フライはドライとニンフを取っ換え引っ換えだ。フライ交換もしんどいが、ここではこっちだ、という思いまで押し込めてしまったら本当に何をやっているのかわからなくなってしまう。
ついに来た。恐れていたものがσ(^_^;)
小渓流の谷あいも風を防ぐ事はできなかった。水の冷たさはもとより、はたしてヤマメはこの川に居るのか? と疑いたくなってしまう。
こんな谷あいですらこの風だから、開けたところではもっとひどいことになる、とそう思いながらも僕はM川氏から聞いていた場所に最後の望みをかけていた。M川氏はそこでカゲロウのハッチに遭遇し、解禁早々ライズの釣りをしていたのだ。
聞いてすぐ行くのもあれだが、もうそんなことは言ってられない。背に腹は代えられず、僕はM川氏が遭遇したのと同じ時間にその場所へ向かった。
そこは淡い期待も吹き飛ばす強風が吹き荒れていた。僕は冷えた体を車のヒーターで暖め、気持ちのどこかでもう車から出れそうもないなあと感じていた。これが Siri の言った良くない天気の正体だったのか。
このまま帰るんならダメ元で投げてみるか、と僕はようやく重い腰を上げた。
川に立った時、ふっと陽が射し、全く突然風が止んだ。
これはどういうことか、僕は天気だけでなく流れてきたカゲロウに目を疑った。
それは溶けて消えたように見えた。そして白いものがたくさん飛び始めた。いや、降ってきた。
重たいはずの川の流れは僕の気持ちと同じで勢いを無くしたようにゆっくりと流れている。
僕は "鱒" を口ずさもうと思ったが、メロディがうまく思い出せなかった。
川の流れをどう感じるかは、自分次第?
水面が波立ち、その波頭がしぶきを上げて飛沫が空を舞った。
こんなに川が荒れるほどの風。しかも吹きやまない。
でもこの小さな支流なら山に分け入れば風を回避できるのではないかと考えた。
実際にはそううまくはいかないが追い風だったのがせめてもの救いだった。
しかしバックキャストが乱れるといくら追い風でもうまく前に飛ばない。
僕は支流の中のゆるい流れだけを探りながら歩いた。
徐々に押し寄せる暗雲。