「ビール飲みよるよ」
なにおーっ! こっちはまだ荷物積み込みよるっちゅーのに。
呑気なメールに焦りは加速し、しかし朝からのセミの合唱と日差しに、徐々に気分が悪くなってきた。この分じゃキャンプ場に着くのは昼を回る。山だって十分に暑い時間だ。
残り少ないエネルギーのほとんどを、荷物積み込みに使ってしまって、ほぼ抜け殻状態で高速に乗る。
もう忘れ物があるかもとか、考えもしない。あるだけの道具で出来る事すりゃいいじゃん(テントはあるだろうなー?)
朝からセミが鳴いていると決して「さわやか」とはいきません。
なんとかキャンプ場まで辿り着くと、もうすでにみなさんでき上がっていらっしゃる。予想通りタープの下からは出られないほどの強い日差しがギンギンに降り注いでいる。
私もとにかくビールを飲む事にした。
今回は連休という訳ではなく、普通の週末だからキャンプ場は空いていた。それは非常に良いのだが、なぜかこの日は風がない。ベタベタに凪いでいるのだ。

五月連休の時は朝夕釣りに出掛けたが、今回は釣りざおすら持ってきていない。
何人かは釣りに出掛けたようだが、私はそういう気にはならなかった。釣りに行けば行ったで、なにかドラマも起こるだろうけど、この暑さでは・・(実はキャンプ道具を積み終わった時点で体力的に燃え尽きてしまったのだ)。

それでもさすがに飲み食いだけでは時間がもたない。なにか涼しくて気持ちの良いこと、釣り師が考えたらそれはやっぱり水辺に出掛けるという事になる。
日本には野生のナマケモノは生息していないので、多分人間です。
ほぼ毎回同じ様子のテントサイト。 犬の散歩は連れて行くのではなくて、いっしょに歩くのです。
仲間の連れてきた犬はそんなに泳ぎたかったのか? というくらいに泳ぎまくり出した。それを見ていた人間も感化されたのか、最初はざばざば歩くだけだったのが、ひとりふたりと水に飛び込み始めた。
・・・犬に先導されとる・・・。

ここでももちろん釣りに向かう仲間もいたが、気持ちよく泳いでいるかたわらでのウェーダー姿はどうにも暑苦しい。
立場が変われば見方もずいぶんと変わるものだ。
三者三様の夏の涼み方。
「ワシのドライもこれくらいの浮力が欲しい」と余裕で浮く山K氏。 こいつ、潜って魚も捕るんじゃないの?
私が風で帽子を飛ばし、川を走って追いかけた。結局回収出来なかったが、気がつくと下流に釣りをしている人がいた。
あまり顔を見ずに会釈をして戻ったが、釣り師はきっと嫌な顔をしていただろう。よもや川で水遊びしている私たちが、いつもは鵜の目鷹の目のフライマンとは思うまい。

夏に狙いのポイントへ行ったら人が泳いでいた・・なんて経験は結構あるが、今回は私たちが釣り師に恨まれる立場になってしまった。
女性陣は河原で大人しく・・・でもなかったな。
ひとしきり泳いでテントサイトに戻ると、ヒグラシも鳴き始めようやくいい雰囲気になっていた。
でもまだ暑い。炭をおこしランタンにも火を入れる。また汗をかく。またビールを飲む・・・。なんか泳ぎに行く前とあまり変わらん・・。

これはこれで悪くはない。だらける時には徹底してだらければいいのだ。これから夜が更けていけばいくらか気温も下がってくる。すると朝が来る事も明後日には仕事に行く事でさえ到底あり得ないと、夜の帳の底に落ちて行く輩であったとさ。
出番なしのいいとこなし。ウェーダーも今回は夏休みです。
おしまい