第四話 滝の上の神風

五月中旬のある週末、いつものエリアに釣りに出かけたが、よく出向くその渓流の毎回釣り終わる地点には滝がある。
水量の多い時は滝下のプールは渡る事が出来ず、平水でも滝の真横を登るのはかなり神経を使う。何シーズンか足が遠のいていたその滝の上の釣行を今回企てた。へずりを意識して沢登用のウェーディングシューズを履いてきたし、極力ベストの中身も減してきた。
滝の下流を釣り上がって、ようやく滝まで来た時は昼が近かった。
滝の上の渓相→
滝までの釣果は思わしくなかったので滝の上への期待に胸膨らませてのアタックとなった。水位は平水だったから滝下のプールは難なくクリアでき、滝の横も慎重に登った。
滝の上の釣りは初めてではない。
しかし、この日滝の上に出た直後、まるで山の神の怒りに触れたかのような強風が吹き始めた。およそフライキャスティングなど出来そうもないほどの向かい風はやむ気配も見せず吹き荒れていた。
なにか恐怖まで感じ始め、この日の滝の上の釣りは諦めて帰ろうと思ったその時、二つ向こうのプールで白いものが目に映った。
おそらく風で波がぶつかって白く見えたのだろう。いくらなんでもライズなんて・・と思った直後ライズした。そしてまたライズした。なんだこりゃ?
風は依然吹きやまず、それでも数秒前まで神の怒りの恐怖でビビっていたはずが、すでにフライのセレクトをイメージし始めている。
しかし、ここはこの日気分良く帰れるかどうかの分岐点だ。慎重に目をこらすとライズした水面をカゲロウらしき虫がバタついている。どうやら飛んでいるカゲロウが強風で水面に叩き落とされ、それにライズしているようだ。
大きさ、色目だけを意識してフライを結びはやる気持ちを押さえながらの最初のキャストはウェーダーを釣った(全然押さえてない)。次のキャストは風で押し戻されて3メートルも飛んでない。しかし3回目のキャストの時、同時に一瞬風がやみ思いがけず強くシュートしてしまった。オーバーターンしたラインは激しく水面を叩いてしまい、こりゃダメだ。
そのキャストで着水したフライに魚が出た事に体がすぐ反応しなかった。しかし、明らかに遅いフッキングよりも早く、またこちらに向かって風が吹いた。結果、風がフッキングのトリガーとなり、自分で追い合わせをした形になってロッドにグンと重い手応えが伝わった。
風のおかげで一匹。
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