高速は思ったより車は多かった。
全く、台風が来ているって言うのにどこへ出掛けるつもりなんだか? オトナなんだから、もう少し自重(じちょう)ってもんをもってもらわんとねぇ、ホント。
などと自分の事は棚に上げているが、こういう時こそ思いがけず棚からぼたもちってこともある。
そこでふと思ったのだが、棚からぼたもちが落ちてきても、賞味期限がいつのだかわからんようなモンは普通食わんよね。
当然そんなもん当てにしてわざわざ台風が迫りつつある時に高速に乗ったりしているのではない。
もっとちゃんとした「釣り的な」当てがあるのだ(!?)。
川にはサカナが、脇には林道が。
渓流釣りの正しい情景です。
川に着いて一番に真新しい足跡が目に入った。今日、いや昨日のもののようだ。
昨日・・、昨日釣りに来れていれば。なんて今更悔やんでもしょうがない。一日違いの釣行が分ける明暗ですら、「釣り」そのものなのだ。
気を取り直してポイントへフライを放り込んで行く。しかし、八月の月末ってこうだったかなぁ。クモの巣がひとつもない。台風の強風圏にはまだ入っていないらしく風も穏やかで、それはそれでいいのだが、川自体も沈黙を続ける(それは困る)。
なにしろ今日は・・。
黒ボディにCDC。#10はタイイングも簡単。今年はシンプルに(?)
昨日ガス屋が天然ガスの切り替えの工事をしたため、昼まで部屋に居なければならなかった。
「八月の最後の土曜日? ですか??」
事前にあったそのガス屋の申し出に、私は相手の常識を疑った。しかしガス屋はきょとんとしている。なんなんだ、こいつは(なんなんだ、私は)。

ひとつ、絶好のポイントで無反応な状況を目にする度に、
「昨日の餌釣り師めぇーっ」と、昨日入渓の釣り師が餌釣り師がどうかもわからないのにそうと決めつける。餌釣り師もいい迷惑だ。
ただ、昨日工事したガス屋も昨日この川に入った釣り師もホントどうかしてる(いや私がイチバンどうかしてる!?)。
きっと昨日はここにでかいのが居たんだ。釣られちゃったんだ・・。シクシク。
(なんかワタシ、重症ですね)
季節が過ぎるにつれ、水の流れでさえ緊張感が薄れる気がするのは考え過ぎか?
前回のK氏との釣行で、来るものを寄せつけないような険しい渓谷を目の前にして決しておくした訳ではないが、なにかイキツケの川を忘れているような気がした。
果敢に険しさに挑むのもいいが、キモチを張りつめなくてもゆるりと釣りの出来るいい川だって知っている。そんな川でドライフライを浮かべて、たまらず飛び出すアマゴを釣ろうと、そう思ったのだ。それなのにガス屋と餌屋ときたら(しつこい?)。

しかし、確かに真夏の勢いは一歩退いているような感じだ。今日の予想最高気温は接近する台風の強風の影響でまた30度を越えるようだが、耐えられないようなあの押しつぶされそうな暑さ、ではなくなっている。
空はどんよりガン玉(鉛)色で、今夜からこのあたりも強風圏に入るという予報だ。ふっと風が吹く。
台風外周の雲の影響か、それとも季節の終わりを告げる涼風だったのだろうか。
今年はコケていない。以前よりもコケやすいと感じたから、気をつける分コケないようだ。
ウェーディングシューズのソールがしっかりと渓の石を捉えているなーって思ったらズルコケた。痛てーっ。
風がどうのこうのって言ったって結局やっぱり焦ってる。くそーっ。
水の造るカタチ。肉眼では見えません。
木の枝が水面より少し上に張り出しているポイント。いかにも残っていそうな・・。
こういう時サカナは目の前に餌が流れてこないと捕食行動に移らないという訳ではなさそうだ。フィーディングレーンとかいうのともちょっと違う、そんなシビアなこと言ってられない事情がサカナ達にだってあるのだ。
たとえ少し離れていたって、自分の定位しているその更に後方だって、気がついてそれが餌だと認識すれば飛びついちゃうのだ。
かくも素直で美しいそのアマゴは、多少のドラグにも不出来なフライのディテールにも目をつぶり(魚類にまぶたがありましたっけ?)、水面を割って出た。

帰り支度をして車を出すと、道路の真ん中に自転車が転がしてある。車が通れない。
脇の農家の納屋を見ると持ち主らしき子供(中学生くらい)がいたので、(オイ、それのけて)と指を差した。そのぼうずは露骨にイヤそうな顔をして、だらだらと自転車を除けた。

すぐそばに膨らみかけた稲穂をたたえる水田や民家のある馴染みの川での八月末の釣りには、なにか現実感というか緊張感がない。確かに歩いたしコケたし、アマゴは手に出来た。
さっきのぼうずは夏休みだから家の用事を言いつけられていて、機嫌が悪かったのだろう。
私の夏の釣りもぼうずの浮かれた夏休みも、過ぎたあとを振り返ると幻だったかのように色あせて見える。きっとその時その瞬間のみがリアルな原色なのだ。

ところでぼうず、夏休みの宿題やったか?
アディオス・アマーゴ!
(うへっ、最後がオヤジギャグかよ)。