釣行前夜はコンセントが足りなくなる。携帯電話にデジカメにiPod。
いったいいつ頃から釣りに行くのに、こんなに充電しておかなきゃならなくなったんだろう?
そもそも釣りって自分自身を充電するためのモノだったんじゃなかったのか?(なんてね)

もう少しで五月の声を聞こうかというこの日、それでも朝のうちはまだ肌寒く、山の花々はようやくの盛りを迎えようとしている。
木によっては今まさに満開だったり、花びらが散りまくっていたり。
まずはコーヒーでも飲みながら余裕のライズ探し(実は早朝で寒いだけです) 今回はこんな山里を流れる川へ。
沈黙が続いていた。空はどっちつかずの薄曇りで、沈黙は活性が低いだけなのか、それとも川に魚が居ないのか、これまたどっちなのか判断がつかない。
近隣のどのインターチェンジからもゆうに1時間半は離れているこの谷あいの集落は、一頃の神楽ブームの賑わいがちょっと落ち着いたと言うかパワーダウンしたというか、その結果静かな春を取り戻していた。
だからと言って私まで大人しくはしていられない。近年稀に見るフライボックスの充実ぶりには訳がある。フォームのパレットに敷き詰められたフライの数々は、期待が加速し続けてやまなかったこの日の一投のために巻き貯めたものにほかならない。
不意にアマゴがフライを飛び越えた。
ビクッとわずかに手が動いただけと思ったが、ピックアップされたフライは私の頭上を飛び越えて行った。
いや、いいぞ。魚の気配を感じさえすれば釣り方はいくらでもある。
フライボックスを開いて、か弱くフレアしたCDCパターンを選んだ。

目の前を桜の花びらがひらひらと落ちて行った。この集落周辺は標高は高く、まだ散り始めの桜も多い。カゲロウが飛ばない分、桜が風に乗り、水面を賑わしてくれているようだ。と、その花びらにライズした。
「ライズ?」
桜の花吹雪の舞う時節の釣りも当然経験がある。だが、花びらへのライズは経験がない。よもや百戦錬磨の渓魚が水生昆虫と桜の花びらとを見誤るなんて考えにくい。
それとも徐々に上がる水温と春の陽気に、勘が狂いましたか?
水位は落ち着いていて、軽快に遡行できました。
CDCフライを投じると、イッパツだった。それが花びらに見えたからか、だとしたら花びらは何に見えたのか? 結局なんでもイイって事か??
それにしてもこの魚、フライを食う時に水飛沫を一切上げずに食いおった。お行儀がイイと言うか、なんとも上品なお食事ですな。
中にはド派手に飛沫を上げてそのくせ食い損なってたり、釣り上げるとこれまた派手にエルクを口からはみ出させていたりと、お世辞にもお行儀がイイとは言えない食いっぷりの方もいらっしゃるけどね(かく言う私もご飯をよくこぼす)。
トビ色の体を持つカゲロウ。とにかく目立ちます。
しばらくすると今度はカゲロウが飛び始めた。その数はみるみる増えて行き、卵塊を付けたものや群飛するもの、水面でちょんちょんするものと様々だ。
体色もトビ色のものから薄緑色、グレーとこれまた様々で、サイズもマチマチ。更にはカディスも飛びだした(ラーメン作ってたら中に入りやがったっ!!)

田起こしの耕耘機のエンジン音が鳴り響き、遠く鴬も鳴いている。遡行はなんの険しさもない里川のそれで、なんだかのどかっちゃってるなー(日本語間違っとる)なんて思ってたら眠たくなってきた。
カディスラーメン(!?)でハラ太ったからかなぁ。
パーマークが千鳥で並ぶアマゴ。
この手の模様も結構好きです。
時刻は正午をまわり、カゲロウの飛翔は時間を追う毎に増えて行った。
私がそう感じたように、カゲロウ達もこの集落がのどかで居心地がイイと思うからこんなにたくさん翔んでいるのだろうか?
日本の河川の全域がこんな調子ではないだろうけど、ここはどうも都合がいいらしい。
水生昆虫の分布と環境はかなり深く繋がっているのは想像がつく。それと私のリラックスとは・・そう、そんなには繋がっていないかなぁ。
まさか花びらで窒息なんてことはないでしょうね。
今日の区間はそこそこ魚は残っていて、デジカメの電池は残量僅かになったが、私の方はしっかり充電出来た気がする。

ふと、春の陽気を一瞬冷やしてくれる風が吹き、またどこからか桜吹雪が舞い落ちてきた。
舞う花びら、翔ぶカゲロウ、その中を縫うようにラインが伸び、私のフライがおじゃまする。もしいっしょに花びらが流れたなら負けやしないが、カゲロウが流れたなら、私のフライに勝ち目はない。
ラーメンだけじゃ足りんかったな。
ハラ減った、帰ろ。