「行ってみにゃあのう。祭りじゃけ」
M川氏の言葉に背中を押され、天気予報の忠告を無視して荷物を車に詰め込んだ。
先週買ったウェーダーは釣り具屋の帰りに車に入れたままにだ。全てを身に付けてみないと忘れ物があるかないかはわからない。魚を釣って帰るのは忘れたくないなあ。
しかし予報は呆気なく外れ、三月になったばかりのこの日、僕は遠く頂に雪を残すやまなみのふもとを目指した。
彼方の山はまだ白く、頭の中も真っ白です(^_^;
川筋に着くと、すでに何台かの車が停まっていた。上流へ向かうと絶妙の間隔で次々と停車している車が現れる。予想以上の賑わいだ。
ようやく前後に釣り師らしき車の見えない区間を見つけて、道幅の広いところに車を停めた。
車から降りると川の流れる音とほのかな新芽の匂いがした。小鳥のさえずりも聞こえる。僕は耳と鼻で、半年ぶりの川を感じた。
陽射しはあるが風もある。フリースを二枚重ね着した。川を見ると柔らかい陽射しにきらめく光がくすぐったい感じがした。
水はしっかりあります。雪は??
どうやら忘れ物はないらしい。ロッドとリールをセットしてキャスティングを始めても、道具に不都合は見当たらなかった。
最初の一本はパラシュート。ついこの間まで重い海フライを投げていたから、おそろしく軽く感じる。
すぐにニンフを沈めたくなるようなプールが見えた。今度はタングステンのビーズヘッドに変えた。慣れた重さではある。
不意に土手にふたりの釣り師が現れた。そして川を指差しあれこれ話をし始めた。まるでここに大規模林道かマンションでも建設する相談をしているかのように川を値踏みしている感じだ。
そして彼らは気付いていないはずのない僕には目もくれなかった。僕も気にせずプールへニンフを投げ入れた。重たいニンフはボトンと水滴を上げて沈んでいった。
めぼしいポイントにニンフを投げながら上流へ向かった。
少し水量が多いようだ。半年ぶりの川歩きであることも手伝って、歩きにくいことこの上ない。
たちまち汗が吹き出した。フリース二枚は着すぎだ。
だがひとたび陽が雲に隠れ風が吹き始めると一気に冷えてくる。開けた里の川だからさえぎるものがない。吹きっさらしになってしまう。
体が不慣れなだけでなく気象的にもてこずるのが毎年の釣りの始まりの常だな。
ウェーダーで歩くのは半年ぶり。ヒーヒー言ってます。
フッとマーカーが消えた。
ロッドをあおると確かに魚の手応えがラインの先にある。
「やった! やったじゃん!!」
ラインをたぐると、ブルブル、スッと手応えが途絶えた。
ああ、なんと、痛恨。ギャフンと言ってしまった。きれいにニンフフィッシングが決まったのに。
未練がましく同じポイントへ投げて流したら、なにかがマーカーに体当たりしてきた。
「! で、でかい!!」
魚体をくねらせて、そいつは水底に消えた。
餌釣り師のおじさんと情報交換しました。
広い河原の場所に出た。ずっと上流の方に人影が見える。エサ釣りの人だが上流から降りてきたみたいだ。
向こうも僕に気付いたようで、歩みをとめた。
彼の立つすぐ下流側にはいい感じの朽ちた堰堤がある。僕はそこにニンフを投げたかった。
彼はその上流側にある淵で粘り始めた。僕は浅い流れにキャストしながら、じわりじわりと堰堤ににじり寄っていった。
かなり堰堤まで近づくと、エサの人は竿を上げ土手を登っていった。しめしめ。
晴れて僕のものになった(!?)堰堤下のプールに、ニンフを沈めた。・・・反応なし、なんじゃ。
まあダメモトってことで最初のパラシュートに付け替えて投げた。一発で出た。すぐバレた(!!)
その年最初の釣りでこの川に来たら必ず晴れるのです。 お騒がせしております。
解禁日が土曜日と重なりましたもので。
二投目でまた出た。からぶり。
しかし、ここに魚が固まっているようだ。
フライ交換。ハッチはないがCDCスペントを結んだ。困った場面ではいつもこれだ。
三投目、それはフライをくわえたというよりも吸い込んだ感じだった。

アシの生息が広がりつつある広い河原で、一瞬寒風が止み春らしい陽が射してきた。
川筋の更に先、まだ雪をかぶるいつもの山が またきたな と言っているようだった。
一匹では足りないなあ。祭りじゃけ(^_^;