SUVやステーションワゴンに抜かれる度に、(あ〜、あそこの区間だけには入らんといて〜)と、すがるような思い。
いくらなんでもそんな高確率でみんながみんな同じ川へ行く訳はない。それでもそれ系の車を見ると釣りに行く以外の目的はありえないと勝手に思うのだ。
思えば解禁が日曜日に重なったことは僕が釣りを始めてから果たしてあったかなあ。
あったかもしれないが、いずれにしても久しぶりの解禁初日日曜日釣行とあいなった。
騒がしい予感がしてきた。
シューズのヒモを締め直し、いっちょうやりますか。
川辺に立った。そこには変わらぬ流れがあった。半年ぶりに水に入る。足をすくわれそうな感触が懐かしい気がする。
ここに来るまでの途中の川筋にずいぶんと釣り師らしき車を見た。
やっぱりかなりの人が入渓しているようだ。
僕のお気に入りのこの区間には誰も見えない。まずは釣りを開始せねば。
初めて新しいロッドにラインを通し振ってみた。ゆっくりとしっかりとラインが伸びていく。
初めてでもすでに手に馴染んでいるように思える。
また、この流れる音とヒンヤリとした空気に包まれる。
キャストの感触を確かめるためにドライフライを結んでいたが、どんよりとした空とキリッと締まるような寒風に、ニンフに結び変えた。
今年からマーカーをT社のループインディケーターにしてみた。どれくらい違うものか。
キャスティングはしやすく、視認性も文句ない。落ち込みの手前の緩い流れに落とすと、マーカーはあらぬ方向へ動き出した。
ロッドをあおると銀の魚体がジャンプした。
一匹目がヤマメのジャンプだ。
まずは一匹目。やっぱり初物は特別な魚になるなあ。
寄せてみるとスレだった。ああ、記念すべき一匹目。今年の、そしてニューロッドの一匹目がスレか。
しかしまあ、フライに絡んできてのハリ掛かりには違いない。
更に上流を目指すが、にわかに雲が厚くなってきた。川に着いた時は薄曇りで、遠くには青空も見えていたから時期に晴れてくるだろうと思っていたが。
寒風も吹き始め、それは三月のことだから当たり前だろうが、一気に寒くなってきた。
まだたいして川を歩いてもいないのに、足下がおぼつかない。半年ぶりのウェーディングは勘を取り戻すまでに時間がかかる。歩きだけでなく、体全体の動きがぎくしゃくが取れない。一匹釣ってリラックスという感じにはなってこなかった。
少し鼻がムズムズしてきた。
持病の花粉症が暴れ出したかなあ。考えてみれば一番花粉飛散の多い時期に、しかも一番多い場所に、あまりにも不用意にやってきたんじゃなかろうか。
年に一度の解禁の日。釣れる釣れないに関わらず、みな半年分の様々な思いをたずさえてやってくる。そんな日に花粉症は勘弁してほしい。
時折晴れて陽が差すが、たちまち雲に覆われる。雲の流れが早い。曇るのと同調して風も強まる。すると花粉が舞う。今日はほどほどにして早めに切り上げるべきかもしれないなあ。
しかしスレの一匹ではさすがに満足できない。

アシの川原が広がる場所に出た。
この先に毎年この時期に釣れるプールがある。
と、不意にアシのやぶから棒、じゃない釣り竿がにょきっと出てきた。
ここでか、ここで餌釣り師と出くわすのか。
解禁日曜日、途中の釣り師の車の多さ、こういう場面も十分考えられたが、よりにもよってここでか。
さて、今年はこいつで釣りまっせ〜(*^O^*)
餌釣り師も僕に気が付いたようだが、そのままポイントへ仕掛けを投じた。
川筋と立ち位置から考えて、彼は上流から釣り下ってきたようだ。
ということはこの先のポイントも攻められてるなあ。
僕は聞けるようならどの辺りを攻めたのか聞いてみようと思い、彼の方へにじり寄った。
すると餌釣り師はすぐにまたアシのやぶの中へ消えていった。
僕はちょっと時間をおいてから、やぶをかき分け更に上流へ歩いた。その先に目当てのポイントが見えてきた。
平坦な里川は、最初の釣りに相応しい場所だ。
いつも雪をかぶっている頂も今年は寂しげ。 寒風吹きすさぶ、早期の厳しい釣りだなあ。
ずっと先の堰堤の上にさっきの餌釣り師が立っているのが見えた。
下りてきた筋をまた釣り上がっていったのだろう。
僕は半ば諦めながら目当てのプールへ照準を合わせた。
水量はちょうどいい。やっかいそうな流れのうねりもない。
いきなりくしゃみが出た。
1回、2回、3回、止まらない。期待はしていないが、このポイントを前にやめてくれ、花粉め。
ドライフライをキャストした。またくしゃみ、4回、5回、6回。
勢いでかがみ込む僕の視界に、ゆっくり浮上するヤマメが掠めた。
フライでしか釣れないヤマメ。これでしょ。
くしゃみが止まらない。くしゃみの連発は体力を異常に消耗する。頭もぼーっとしてきて、なんだかもうろうとした感じだ。
たまらず川を上がり、車に戻ることにした。
車へ向かう途中でもくしゃみが止まらず、それに合わせて民家の犬まで鳴き出した。
「こんにちは」と声がした。どこだろうと見ると屋根の上に男の子と犬がいる。
彼らは毎年この時期にたくさんの人が同じ目的でやってくることを知っているのだろうか。
僕は熱に浮かされたような感覚のまま、あいさつを返した。
へっくしょん。もうええっちゅーんじゃ。