直近で降った雨量はデータとして閲覧できるからいいのだけど、これから降ることに関してはどこまで予報を信じるか、しかない。
スポットでの降雨予報を見てこれから降らなさそうな場所と気になる川とが合致した。
行き先さえ決まればもう迷いはない。高速上限千円最終日に僕たちは西へと向かった。

M川氏との釣りは二年ぶりだった。そして梅雨真っ只中に一緒に行くのは、たぶん初めてのはずだ。読み通り、雲に覆われた空から少し日差しが出てきた。
天気を読みに読んで辿り着いた「梅雨晴れの谷」。
「今年はまだ食べてなかったんじゃ」とM川氏はかがみ込んで手を伸ばした。
木苺だった。僕も一緒に食べてみた。ほのかに甘く酸っぱい。
これは山の味だなあと思った。
小さな沢も入ってみたが魚影はなかった。僕たちはこの支流を諦めて来た道を戻った。

少し暑いくらいかと思ったが、また雲が厚く覆い出していた。
おかげて汗をかくことはなかったが、この感じがそのまま川の中にまでも影響しているようにも思える。
M川氏の記憶に眠る川。もう何年も入っていないらしかったが、そこが急に思い出され気になってくる。それはきっと何かある。
訪れた川は里の支流のその上流部だった。大きな堰堤を越え、その先から僕たちは入渓した。

ものの数メートル釣り上がるとその先に立ちはだかる巨大堰堤に僕たちは唖然とした。
徐々にこの川の全容が明らかになってきた。堰堤に寸断された川。それでも小さな魚は命を繋いでいた。
林道脇の木苺。山の幸を少しいただく。
水量はやや多め、それは釣りには適している。どこも一級のポイントのように見えるが、反応はなかった。
M川氏と交互に釣り上がって何回目かの僕の番、水深のある溜まりに浮いたドライフライにスス〜っと魚影が近づいた。
ゆっくりくわえるのをゆっくり確認してから合わせた。ググンっとロッドに重量がかかる。
思いの外引きが強くすぐに寄せるつもりが少しのされた。
「やっぱりよー曲がるのオ」とM川氏が僕の6フィート3インチを見て言った。
僕は魚の引きとその言葉が気持ちよかった。

その後M川氏も何匹か釣り、その感じからここは下流の車の釣り師は入っていないようだ。
だがテンポよく釣れ続けるわけではなく、リズムに乗り切れないまま堰堤のある場所まできていた。
ヤマメの顔を見れたことだしひとまず車へ戻ることにした。
その後今度は下流をやってみようと移動すると、ちょうど例の車に向けて下流側から釣り師が歩いてきていた。
この釣り師は車から下流へ釣り下っていたのか。
例外なく高い木々。河畔林の樹齢と魚影とは関係・・・あるのか?
初めての川。渓相もよし。ただ肝心のものが・・・。
二番目の川は僕もM川氏もよく知った川だった。ただ時間が出遅れている。入ろうと思っていた場所の少し手前には釣り師らしき車が停まっていた。
僕とM川氏は目を見合わせたが、すぐにもっと上流へ行こうということで意見が合った。

しばらく上流へと進んでから入渓した。しかし下流の車の釣り師が早朝から入っていればここもすでに通り過ぎているとも考えられた。とにかく様子を見ることにした。
山の木々から沸く水蒸気が景色を霞ませる。
モリアオガエルの卵塊。今がシーズンのようです。
鬱蒼と茂る広葉樹。この川の魅力はなんといってもこの木々だ。おそらく過去に伐採されたことはないのだろうと思えた。
こんな環境だから川にも良い魚がいる、とそう思いたい。
僕たちはまた上流へと移動した。今度は釣りが可能な一番上流域、へと降りた。
僕が先に降り、釣りを開始してもM川氏はなかなか斜面の途中から降りてこない。
僕がしばらく釣り上がっているとM川氏が追いついてきた。
その時、一気に絨毯爆撃のような大粒の雨が落ち出した。
ヤマメの川でヤマメを釣る。これが正しい渓流釣り。
前かがみなのは僕の癖のようです(写真提供 M川氏)
空は明るいのに雨は止まない。早く梅雨が明けないかなあ。
巨木の下で雨宿りをしていたが、どうにも止む気配はない。
M川氏はこらえきれずロッドを振り出した。僕もあとに続く。
フライよりも大きな雨粒が水面を叩く。
M川氏も僕も夢中でフライを投げた。ようやく僕のフライに反応があった。タカハヤだ。
徐々に川の水に濁りが混じってきた。僕たちは川を上がった。

M川氏は斜面を降りる時、大きな木苺を見つけて食べていたらしい。僕も食べようと斜面を探してみたがうまく見つけられなかった。