きらきらと陽光が水面で輝いて、なんだか光の匂いがしてくるような気がした。
川に立つなんてことは釣りをしていなかったらほとんど経験がなかった訳で、光の匂いなんて初めて渓流に立った時に知ったのだろうか。

ドライフライを流れのたるみに落とすと、ヌッと魚体が出てフライを隠した。
ロッドに伝わるヤマメの重さが心地よい。光が反射する水面にヤマメを引き上げた瞬間、ふっと重さが途絶えた。
一瞬見えた魚体はまださびて黒っぽかった。
笑顔のヤマメ。春だーっ、とは言ってないですが。
北部の山塊にはまだ雪が残っている。その山塊を水源とする川はまだ雪代で増水しているようだ。
ならば僕はおのずとハンドルを西へと切ることになる。
未だ春らしさを感じたことのなかった西エリアだったが、雪ではなく花で白く染まった山を見て、ようやくその時がきたのだと確信した。

その川は山里に流れ込んでいる。里を過ぎて遡ると辺りはすぐに森に囲まれて里の気配は消えてしまう。解禁からずっと開けた川ばかりで釣っていたから、久しぶりの渓流の様子がちょっと懐かしい。
コブシが群生。山ひとつが白く染まる。
竹と水面との間にサイドキャストでフライを送り込む。
最初はてんで奥まで行かなかったが、3回目でようやく奥に入った。するとすぐにヤマメが出た。
合わせるとラインが竹の枝に当たったが、ロッドを寝かせうまくラインをたぐることができた。
さっきバラしたのと同じくさびた魚体だが、まずは初ライズを仕留めた。
上流を見るともっと先でまたライズがあった。今度は完全に木が倒れていてフライを流すのは無理だった。
かなりここの川は荒れている。山の斜面を見ても倒木が何本か放置されていた。
グンッとラインが引っ張られた。(またやった)
すぐ上に枝が出ているのに目一杯バックキャストをしてしまった。こんな川でそんなことをしたら一発で引っ掛かってしまう。
まだ開けた川で釣る感覚を引きずっているようだが、いい加減に学習しないと引っ掛けたのはもうこれで四回目だった。
フライを取ろうとしていると、いつのまにか今度はリーダーが枝に絡まっている。思うようにキャストができず、ポイントも倒木に邪魔されて攻められない。
ライズを釣ったあとも何度かヤマメは出てきたが、次々とバラしてしまっている。少し落ち着こうと、川原に腰を下ろした。
白いSUVが川沿いの林道を上流へ向けて走っていった。ほかの釣り人も動き始めたか。そういえば柔らかい陽射しが暖かい。
来てすぐに感じた光の匂いのことを忘れていた。流れに手を浸けるとひんやりとはしているがこごえる冷たさではなかった。
この川にも本当に春が来ているようだ。最初は散発的だった虫の飛翔も徐々に増えてきていた。
今週もナミヒラタさん登場です。
下流側からわっと虫の群飛が発生した。風に押されて僕を通り越して上流へ流されていった。
よく見てみると小型のカディスのようだ。次から次へと群飛はやってくる。まるで粉雪が横に降っているみたいだ。
時折大型のカゲロウも混じって飛んでいる。大きな卵塊をつけているものもいた。川全体が騒ぎ始めているように思えた。

相変わらず枝にフライやリーダーを引っ掛けながら何匹かヤマメを釣った。
これまたさびたヤマメばかりだったが、活性の高まりは確かに感じられた。
ポイントをさえぎられて、手も足も出ず。
渓流の清浄な水に足を踏み入れてと思ったが、川底に結構泥が堆積している。石にもぬめりがある。これはビブラムソールが一番苦手とする状態だ。
案の定最初のヤマメをバラした直後、見事に滑ってこけてしまった。
これはかなり注意して歩かないとまたこけかねない。
普通に歩くのにもかなり足元がおぼつかない。踏ん張って力が入るからかなり疲れる。
よたよたと歩いていると岸から竹が倒れ掛かって覆い被さっている流れでしぶきが上がるのが見えた。
これは・・・、今年初のライズだ。
少しづつ春の芽吹きが感じられる。山にも川にも。
前方にまたライズを見つけた。その上をまたしても木の枝が覆い被さっている。枝の直前でフライを落とそうと、目測で距離を計り慎重にキャストした。
しかしフライはわずかに飛び過ぎた。枝の上からフライは落ち、ティペットがクルクルっと枝に巻き付いた。
(ダメか)っと思った瞬間、巻き付いたフライはクルクルっと逆回転をしてそのまま真下にぽとりと落ちた。
バサッとヤマメが出た。
森の木々がザワザワっと音を立てた。春の風が吹き始め、また光の匂いがした。
いずれくっきりパーマークへと成長していく。
水面下に深い角度で突き刺さるパラシュートで。
森を抜けると開けるが、また次の森へと入っていく。
ビブラムソールの天敵は石のヌルです。
木々はまだ枝だけが目立つ。