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土曜日の雨が思った以上に多かったようだ。
この辺りの累加雨量は16mmだったが、ちょっと竿が出しずらいくらいに増水している。 単に直近に降った雨だけの影響ではなく、もとより雪解け水で多かったことも考えられる。 もうすぐ五月になろうかというのに、1000mを超える山にはまだ雪が残っている。 本流筋の川はあきらめて、支流へ向かった。支流ならなんとか釣りになると思ったからだ。 それにこの日は釣りに目標があった。
四月下旬、まだ山の頂には雪が残る。
支流で一匹ヤマメを釣ったが、まだまだ小さい。
この支流も流程は短いから、次の川も考えておいたほうが良さそうだが、ここでもうちょっといい型を見たい。 上流から地元のおばあさんがカゴを持って川土手を降りてきた。土手の山菜かなにかを採っているようだ。 それにしても空が暗い。なんだか今にも雨が落ちてきそうな雲行きだ、と思ったら落ちてきた。 カッパを羽織り上流へ歩いた。この支流も増水していたが、なんとか釣りになる水位だった。 しかし雨がひどくなると釣りにならない。
川の流れる音が大きいのはわかる。平水時よりも水かさが多いからいつも以上に音が大きくなる。しかし、それとは明らかに異なる音が混じって聞こえた。いやな感じの音。雷だった。
割と近くの空でゴロゴロっと響いている。稲光が見えるほどの音ではないが、どうにも気持ち悪いし落ち着かない。 と、気にしていたらスッと辺りがあかるくなった。雨もほとんど落ちてきていない。青空も見えてきた。どうやら雷雲は遠ざかったようだ。助かった。 カッパを脱いでベストの背中に押し込んでいたら今度は土手に地元のおじさんが現れた。そろそろ田んぼに水を張る時期になっている。あと少しで田植えが始まる頃だ。 今年の厳しい冬が釣りの良くなる時期を遅らせているが、稲作は遅らせる訳にはいかないだろう。いつもの年と同じように水田の風景は変わっていく。
どうにも雷が気になるので一旦車へ戻った。
少し上流へ移動すると道の傍らで餌釣り師のおじさんが車の脇で釣り支度をしていた。 僕は車を停めて窓を下ろし、 「こんにちは、どうですか?」と話しかけると、 「最初入った○○川でまずまず釣れたよ。そちらはどう?」 と返してくれたので、僕もこの支流の下からやったが一匹だけだったと言った。 「雷が怖いね。一度遠ざかったがまた次の雲が来たね」 おじさんはそう言い川へ降りていった。 空には黒い雲と青空が両方見えていた。
金曜日にM川氏の工房を訪ねた。
どうにも今年の釣りはリズムに乗れない。川の様子がいつもと違う。次はどこへ行こうか、行く川がきまらない。などなど。 そんな話をしているうちに、今年の魚は小さい。大きいのはいないのか、という話題から、尺を計るマークをつけているロッドが増えたという話になった。 「尺もいらないでしょう。M川ロッドはグリップのエンドからコルクの先端まで21cmですよね。それで足ります」と僕が言うと、 「せめてそれは超そうやあ」とM川氏。 う〜む、21cmかあ。それくらいならなんとかなるかも。
このサイズはもう今年何匹釣ったことか。
再度キャスト。プールの奥に落ちたフライにヤマメがかぶさった。
よしっと合わせると、ぐぐっと重たい手応えが伝わってきた。 狭いプールをヤマメは駆け回った。僕は興奮を押さえながら慎重にヤマメを寄せ、ネットを差し出す。 しかし入らない。もう一度すくおうとして今度は入った。 (これは超えたか)僕はロッドのグリップをヤマメにあててサイズを計ろうとした。その時ヤマメはバシャッと跳ねて流れに逃げてしまった。 谷に陽の光が射し込んできていた。雷の音もいつの間にか聞こえなくなっていた。
空気がおいしいから腹減った〜。
桜が過ぎ、菜の花が咲く。しかし、この日は更に・・・。
釣り人も農作業のおじさんも、お互い慣れたものです。
晴れてきたかと思ったが川に集中しているうちにまた曇ってきた。
そしてまた雷が鳴り始めた。 雨も落ちてきた。 僕は昔バイクツーリングをしていた頃のことを思い出した。 カッパを脱いだら雨が降り出し、着たら止む。ヌグフルキルヤムの法則だ。 珍しく春雷が間近で鳴っているからか、僕は今の季節が冬でも春でも夏でもない、新しい種類の季節のように感じた。 雨が降ったこともあり、土手や山の草木が瑞々しい。
春雷とともにウエノヒラタカゲロウ登場。
もと来た道を戻り、最初の入渓地点の近くにある小さな沢に入ってみることにした。
雷の音は少し遠くなっていた。でも、雨はまだ降っていた。 その雨に、やっぱり季節が進んでいるんだと感じることがあった。 解禁すぐの頃なら、雨が降ったら釣る気なんて消し飛んでしまう。寒さに雨で濡れることが追い討ちをかけて凍えてしまう。 しかし、この日の雨はそんなことはない。よっぽど雨足が強まらない限りは僕は釣りを続けるつもりでいられた。 冷たい雨ではなくなってきているのだと、そう気が付いた。 目の前を大型のカゲロウが飛んだ。オリーブと黄色の中間くらいの色合いの翅を持つウエノヒラタカゲロウだ。 小さな流れだから頻繁にライズするようには思えないが、ハッチがあるだけ期待が持てる。 フライのサイズも遠慮せずに#12のパラシュートを結んだ。 小さな流れの小さなポイントにフライを落とすとこれまた小さなヤマメが食いついた。 次のポイントに落とすとまた出た。また小さい。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
ようやく芽吹く季節になってきました。
山里の季節は花々と農作業でわかる。
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ヤマメはライズした時に水上の景色が
見えているんだろうか? ![]() ![]()
なんなんだこの沢は、と言うくらいに小さいヤマメが次々釣れた。
たいていのポイントになっている場所でほぼ小ヤマメが出てきた。でもこのサイズはもういい。 小さなポイントは飛ばして先へ進むと、壊れかけた堰堤の小プールが現れた。 ここは慎重に行く。一投目を投げる時バックキャストでフライが木の枝に引っ掛かった。くそっとイライラしながら外しに行った時、フライが引っ掛かっている木の枝に新芽が出ているのに気が付いた。 辺りを見渡すと、まだ枝だけだと思っていたがどの木もこれまた小さな新芽が枝の先から顔をのぞかせている。その芽が雨に濡れて更に伸びようとしているように見えた。 ひと呼吸おいて気分が切り替わった。 |