其の二百十四  黄砂と紅葉と放流
この辺りは去年の秋も観測されたらしいのだが、朝からぼんやりと景色がかすんでいた。
秋の黄砂だった。かすみ具合いや空気感はまさしく春のそれだった。
11月中旬、朝の山あいはひんやり冬の気配をまとっているのが通例だが、この日は着込んできた上着を一枚脱ぐことになった。
恒例の放流会にYやK.bたちと一緒に参加した。山は今まさに紅葉の真っ盛りで、紅葉狩りとおぼしき車も多そうだ。
拝啓、漁協組合長様。これから旅立ちます♪ヽ(^-^ )
養魚場でたっぷりとアマゴをタンクに入れて、最初の放流ポイントへ向かった。
バケツでアマゴをせっせと運ぶ。釣りシーズンではお目にかかれない数のアマゴをいちどきに川へ放つのは非日常の光景だ。
放流しただけ次の年に釣れたらなあとか、放ったアマゴをリザーブできないかとか、これまたありえないことを考えたりもする。
バケツを川に浸けるとさっと流れに出て行くアマゴがいれば、一向に出ようとしないアマゴもいる。
陸の上では歴史的な円高や就職難が続いているけれど、あなたたちもこれからが大変です。
落ち葉は山の斜面も川面も埋め尽くす。
かなりの量のアマゴなので、一ヶ所に控えめに放流していてもタンクの中のアマゴは一向に減らない。
しかし川へ降りれる場所が限られているから、どうしても同じ場所に大量に放流することになってしまう。せめてうまいこと分散してくれよな、と流れを遡るアマゴたちを見送った。
風が吹き、ひっきりなしに落ち葉が舞っている。
冬に降り積もる雪は翌年の川にとっても、自然のバランスにとっても大事だが、秋の落ち葉が降り積もるのもそれと同じくらいに大事だ。
紅葉の谷へ、朱点を持つ魚を放つ。
この傷跡! 野生の気配がすぐそこに。
(写真提供 W氏)
漁協タンクの中は大渋滞です。
ランチ会場に着くとすでにほかの川のメンバーは到着していた。
一年ぶりにここでだけ顔を合わせる人もいるし、すぐに釣りのことや近況報告で大盛り上がりになる。
この日はM川氏の新作ロッドも見せてもらった。T君は偶然にも僕と同じ防水デジカメを買っていた。しかし今回僕のデジカメは水の浸水により、途中から作動不能になってしまった。無償交換になるかな〜?(^_^;
W氏とは一年以上ぶりの再会だった。そしてW氏からかなり強烈な木の幹の傷跡の写真を見せてもらい、さらには木の上に登っている熊の動画まで見せてもらった。
今年は全国各地で熊が町に出没するニュースが多発している。この辺りも餌の不足は例外ではないはずだった。
しかしW氏は熊を山奥へ留めるための独自の活動をしているらしい。
なんとすごい。でも事故のないようお気を付けて。

会場から見える山々の風景もやはり薄くかすんでいた。
この紅葉の風景と黄砂の取り合わせはなんだか落ち着かない。
それでもアマゴを放流したり昼ご飯を食べてがやがや話をしていると、ちゃんといつものひと時を過ごしていることに気付く。
やっぱりオフシーズンには欠かせないイベントなんだなあと、また風に舞う落ち葉を眺めながら、そう思った。
陽がゆっくりと西の空に傾いていった。
今年もこの風景に出会えました(T君のカメラを拝借)