其の二百十七  10分で、フライフィッシング
今年の春に住んでいる町の都市高速の2号線と3号線ができた。
乗る機会がなかったのだがせっかく自宅のすぐ近くに料金所ができたのだから、ちょっと乗ってみることにした。
町中を貫く高速は異次元の感覚で、あっという間に海が見えてきた。
料金所を降りたのがちょうど10分後。なんとも早い。
後部座席には釣り道具を載せている。自宅を出てから釣り開始までの所要時間の最速記録更新は間違いないようだ。
立体交差のその先に・・・。
見当をつけていた場所には投げ竿が置かれていた。誰かが釣りをしてるようだ。僕はその先でロッドを振り始めた。
今までの4番ロッドと違って、6番ロッドだからキャスティングが楽だ。重たいフライでも無理なく投げることができる。
しばらく投げては引いてを繰り返していると、投げ竿の主が戻ってきた。
「酒がなくなったから買いにいっとった。にいちゃんはよくここに来るんか?」
なんだ? なにも聞いてないのにいきなりしゃべり出したゾ。
冬晴れだけど、やっぱり風は冷たいなあ〜。
「たまにしか来ませんが。来ても週末だけです」
「そうか、にいちゃん働いとるんか?」
そりゃそうだろ、普通。
おじさんは機関銃のようにしゃべりまくって、また自分の竿のところに戻っていった。
その間に沈んだフライはがっちり岩に引っ掛かっていた。

釣り始めは早かったが、なんの反応もないので、場所を変えることにした。
車でものの数分走ったところに漁港があったはずだ。
午後の港に帰港する漁船。大漁だったでしょうか?
おじさん、飲み過ぎにはお気を付けてσ(^_^;)
漁港の波止場には小学生たちや親子づれが釣りをしていた。
少し離れたところでまたロッドを振ってみた。
しばらくすると親子づれのお父さんの方が話しかけてきた。
まだ一匹も釣れず波止場の突端の小学生たちは小さなメバルを釣っているとのこと。
海はどうやら潮止まりで見るからに釣れそうもない雰囲気になっていた。
小学生たちは竿を置いて自転車でどこかへ行ってしまった。
どうやらお昼ご飯を食べに行ったようだ。腹減ったなあ。
将来のフライマン。なぜか裸足で竿を振ります。
僕がロッドを振っていると、今度は親子づれの子供の方が珍しそうに近づいてきて聞いてきた。
「それ、なんて釣り方?」
「ああ、えっと、擬似餌を使うやつだよ。フライ釣りっていうの」
「ふ〜ん。フライツリフライツリ」
その子はそう呪文を唱えながら僕の釣りを見ていた。
できればその子の前で釣って見せたかったが、さっぱりアタリはないままだった。
なんとか現状打破したのでフライをエビのパターンに付け替えてみた。
これは・・ メバル? ソイ? まさかハイブリッド?
僕は波止の内側の船溜まりにフライを落としてみた。
ほとんど足下を釣るような格好だからフライロッドなんて全然必要ない。
落としたフライに小魚が集まってくるのは見れる。一応興味は示しているようだが。
と、急にグッグッという手応えが伝わってきた。なにかが食いついたようだ。
ラインを手繰りロッドを上げて見ると小さな魚が釣れていた。
声を上げるとさっきの親子づれの子供が走って駆け寄ってきた。
いくつになっても釣りへのドキドキを感じたいなあ。
「なに〜? メバル?」
彼はそう言いながら魚よりも魚がくわえているものに目が行っていたようだ。
「なにで釣ったの?」
「これだよ」とフックを外してフライを見せてた。
「なにこれ? 買ったの?」
「自分で作ったの」
そう聞くと彼は目を見開いて驚き、続いてキラキラと輝かせた。
自分で作った擬餌針で魚を釣ると言うことが、彼の琴線に触れたようだ。
あの目の輝き、もうすっかり忘れていたものを思い出させてくれた気がした。