其の二百二十七  カゲロウ繚乱
渓流釣りが解禁になってもドライフライでテンポよく釣る、とはなかなかいかない。
まるで冷蔵庫で冷やしたミネラルウォーターのような川の水。冷え冷えとした空気。果たしてヤマメなんて釣れるのだろうかと不安になる。そんな時に、おっ、と思わせてくれるのがカゲロウだ。
カゲロウたちの羽化が始まると、どんなに水が冷たくてもドライでイケるのではないか、と思ってしまう。
カゲロウが飛び始めてそわそわするのはヤマメも釣り人も同じなのだ。
羽化直後のマエグロヒメフタオカゲロウのダン。
川筋を観察すると、ふわっとカゲロウが飛び立つのが見える。
あるものは水面から、あるものは石の陰から。
この場合羽化したてのカゲロウが飛び立っていることが多い。
水際の石を見てみると陸上羽化のためニンフが石にはい上がっているのを見ることができる。
それで羽化の時間帯がやってきたことを知る。
これでライズがあれば一気にドライフライモードに突入となる訳だが簡単にはライズは見られない。
それでもカゲロウが飛んでいればそれだけでロッドを振る力となる。
片方の翅にダメージを負ったシロハラコカゲロウ。
常々思っていたが水面で羽化するカゲロウはなぜあんなに危険に身をさらす方法で羽化するのだろう。
水中から水面へと浮上して、そこで脱皮するだなんて、ヤマメに食べてくれと言っているようなものだ。
少なくとも水面羽化よりは陸上羽化の方がリスクは低いだろうに、なんでわざわざ水面を選んだのだろうか。
それにしてもいよいよ水中生活から離れて翼を広げようとする直前に捕食されるなんてなんとも儚い。
そんなカゲロウの短い一生の儚さを考えると、僕の不細工なフライでは申し訳ない気もしてくる。
アカマダラカゲロウにしてはちょっと早めか。
同じカゲロウが大量羽化するいわゆるスーパーハッチには出くわしたことはないが、ハッチが始まる時というのは、ひとつの種類のカゲロウだけではない気がする。
カゲロウが飛び始めると、その大きさや色や形が様々であることに気が付く。どのカゲロウにしても羽化するのに適した条件や時間帯は似通っているのだろう。
そして幾種類ものカゲロウが飛び交う光景は、今まさにフライフィッシングの真っ只中にいるんだなあという気分にさせてくれる。
こんなにたくさんのカゲロウが飛ぶ中で、ヤマメはどのカゲロウを選んで食べるのか。ここがフライマンとしての腕の見せ所か?と思うのだが、シビアなライズにでも合ったりしたら振り回されっぱなしになる。
不意に水面から大型のカゲロウが姿を現す事がある。
春の大型カゲロウの代表格のナミヒラタカゲロウは、水中で脱皮し亜成虫の状態で水面へと一気に浮上し飛び立つ。
水面羽化というより水中羽化とでも言えそうなこの形態ならリスクは少しは減るのだろうか。
水面羽化のカゲロウもこの先何百年と経っていくうちに、よりリスクの低い陸上羽化へと進化していくのかもしれない。
そうなるとドライフライの釣りにも多少影響が出そうだが、僕が釣りをし続けている間は影響はなさそうだ。
存在感たっぷりのナミヒラタカゲロウ。