其ノ二百四十一  放流が呼び起こすもの
なにを着ていけばいいんだろう?
当日の朝になって最初に考えたことはそれだった。
ひと月前にペアリングを見に行って以来、北部へは行っていなかった。だから気温がどれくらいでどんな服を着ていけばいいのか予想がつかなかった。
でも毎年この時期に行くんだからとりあえずいつもと同じ格好で行くことにした。

Yの車で集合場所に着いた時は上着なしで大丈夫な感じだった。
久しぶりに顔を合わすメンバーに気持ちがはしゃいだ。
ムギュー、狭いんだって。あっちいけ。
落ち葉で埋まった道を行く。いつの間にか秋は深まり。
T君率いるS川チームは少数精鋭。漁協のトラックにアマゴを移す段階から一部のメンバーが驚くべき行動に出たがなんとか自重してもらった。
山の様子は紅葉はしているようだがなんだか鮮やかさがない。紅く染まるというよりも茶色く灼けた感じだった。やはり気候の影響があるのだろう。
天気もすっきりしないからちょっと残念だ。

最初の放流場所に移動した。バケツを持って水辺に集まるいつもの光景。今年もちゃんと見ることができた。
普段の生活の中では接することのない生きた魚に触れて、メンバーの子供たちはかなりテンションが上がっているようだ。
まあ気持ちはわかるよなーっと思いながら、僕もYや久々に会ったR君に続いて川に降りた。
実際渓魚をこんな間近に見るのは禁漁になって以来初めてだ。ペアリングで魚は見たがもっと距離が離れていた。ちょっとだけ魚体に触れてみると2ヶ月半前の釣行が思い出される。
禁漁からあとは一度もロッドを振っていない。バンブーロッドの感触、フッキングする瞬間、魚の掛かった時のはやる気持ち。渓の流れの音に乗ってそんな記憶が湧き上がってきた。
来年の釣りこそはと念を込めてアマゴを放つY。
今回のチームに放流に初めて参加した人がいた。彼はずいぶん前にフライをちょっとやったがその後やっていなくて、この度また始めようとしているそうだ。
釣りだけでなくキャスティングにも強い思いを持っていて、そんな話しを聞いていると(僕にもこうやってフライのあれこれに気持ちを踊らせている時期があったよなあ)とまた思い出してきた。
そういう新鮮な気持ちはこの釣りをやり始めた時だけのものだと思っていた。しかし彼の話を聞きながら案外そうでもないかな、と僕は思い始めていた。
つ、つかんだらダメよー(◎_◎;)
いつもの光景。
来年ここで釣れないのもいつものことだが(^_^;
山も道端も秋色に染まる。きっと川の中も。
いかがでしょう? 自然の川の居心地は?

今年もこの風景。ただしかなり寒かったです。
放流を終え恒例のランチ会場にやってきた。
標高の高いこのキャンプ場は、これまた着るものの感覚を狂わせてくれた。
今にも雪でも降りそうな冬の様相を見せている。秋はすっかりその存在感を消していた。

唐揚げにカレーに粕汁、山K氏のアジの干物と、美味さが寒さで更に加速していく。
これまた久々に会ったW氏はiPhoneで電話をしていた。
そんなばかな、ここは圏外のはずだと見てみるとauのiPhone!
むむむ、やるなー。
キャスティングする人、見る人。もうすぐ冬が来る。
W氏会心の熊写真を見せてもらい、いつものビンゴゲームで沸いた。
休みを取って参加しているM川氏がロッドを持ってきていて、何人かが振り始めた。僕もちょっと振らせてもらった。
2ヶ月半振りのバンブーロッド。その感触を味わうと、さっき放流したアマゴのことを思い出した。
魚体の感触、流れに泳ぎ出すその姿。子供たちがはしゃぎ、フライを再開する彼が熱く語る、その気持ちが僕にも伝染してきたみたいだ。
少しだけ陽が射してきた。
僕はキャスティングする人たちの作るループをもう少しだけ見ていくことにした。