其ノ二百四十八  初釣りとM川氏の港
M川氏と向かった港は市内からそんなには遠くなかった。
まだ日のあるうちに港に入り、徐々に暗くなるのに慣らしながらの釣りとなった。
M川氏と海に来たのは初めてだった。当然M川氏も今年の初釣りなのだから、この日の釣りにかける思いはそれぞれにある。

風はなく思ったほど寒さが気にならない。着込んできたがちょうどいいくらいの寒さだった。
潮は小潮、満潮から2時間ちょっと経っていた。
そろそろの頃合いだ。
さあ〜、今年を占う初釣り、どうなる?
日が沈んだ。これからが本番のはずだが。
ここ数年、初釣りと称して年が明けたら海へ出掛けている。
初釣り、その年の釣りを占う、なんて毎回ハードルを上げて望んでいるわけだ。
なんとかボウズはないが(かなりアヤシイ年もあったが)、決して占いの結果としては良い方でもなかったような。
今年は夕方から夜にかけての釣りを最初の釣りに選んだ。
今まで昼間の海で大漁とはほど遠い釣果に甘んじていたが、夜なら楽勝でしょう、と思っていた。
最初から良い結果を約束された占い? それはどうなのか?
みるみる辺りは真っ暗になってきた。ほどなくして港の灯がついた。灯が水面を照らすところを狙ってフライを投げる。
M川氏が近づいてきた。どうも魚の活性が上がってこないと言いながら僕に釣り上げた魚を見せた。
僕はわっと声を上げた。僕が今まで釣ってきた魚とは尺度が違う。

昼間の釣りとこれほどまでに勝手が違うとは思っていなかった。
魚を見て釣ることに慣れていたので、闇の中から釣り上げようとすることがどうにも落ち着かない。
よーし、初物釣りましたー。
う〜ん、動きが止まった。
日が沈み、でもまだ水中は見える。僕は例によって魚を見つけてはそれを狙ってキャストした。だが去年の島での釣りのようにわっと寄ってくる様子は見られない。まだちょっと早いか。
M川氏は少しづつ移動しながら防波堤沿いを攻めている。初釣りをと考える人はほかにも居るかと思ったが、あたりにほかの釣り人の姿はなかった。
夜の釣りなら釣れると言う安直な考えが、とりたてて焦ったりすることもなく余裕でロッドを振らせてくれていた。
徐々に光量が減ってきて海の様子がわからなくなると、逆にいよいよだーっと期待感は高まりつつあった。
ググッンとロッドに重量がかかった。いや、違う。根がかりか。
引っ張ると外れた。藻に引っ掛かったようだ。
だいぶ潮は引いてきている。一番いい時間になってきているようだが、まだ目立ったアタリがない。
と、またググッン、今度はどうだっ!?っと思ったがそのあと引きがない。くわえただけか。
M川氏は釣れているのか? 防波堤の先の方まで行っている。
と、またまたググッン、今度はかかったか?
根がかりでも藻でもない手応えは途中で途切れることはなかった。
丹念に探るM川氏。辺りは真っ暗に。
M川氏のカサゴ。比較用に僕のロッドを置いて。
いつまでも釣り続けられるような夜の中。
M川氏がメバルのライズを 見つけて教えてくれた。
僕が初物の一匹を釣ったあと、全く反応がないまま数時間が過ぎていた。
僕は走ってその場所へ行き、軽めのシュリンプパターンを結んだ。
口をあけて水面に上がってくるメバルが見える。
そこへキャスト。しかし反応はない。別の所にメバルが上がってきた。キャスト、反応なし。

潮は下がりきった。M川氏は闇に溶けて見えない。
空には小潮の半月が登っていた。