其ノ二百四十九  七つの橋の島
四つ目の橋を渡った。
三つ渡った所の島が最近よく行く釣り場だったが、この日はもうひとつ次の島まで足を伸ばした。
満潮は十時過ぎ。潮流が始まるまでまだだいぶある。
四番目の島を走っていると目ぼしい場所にはすでに車が停まっていてみんな釣り支度をしている。
道路の傍らにはみかんを売っている所があちこちにある。
この辺りはみかん栽培が盛んだ。島の山はみかんの木がどこででも見られる。帰りに買って帰ろうか。
そして五つ目の橋が見えてきた。
気温9度、無風、これで着込んでたらそりゃ暑いわ。
開けた海ではなんだか攻めあぐねる。
iPhoneで潮を確認し、地図も見ながら釣りに行く。
そんなやり方もごく当たり前に感じるようになってきた。
iPhoneを手にした最初の頃はやたらドキドキしてはしゃいで使っていたのに、やはり慣れというものは新鮮さや刺激を包み隠してしまうものらしい。
釣りも同じで、やり始めたころの気持ちの昂ぶりが今も同じくあるとは言えない。
釣りの場合はせめて行き先を変える事で新たなドキドキ感をかき立てることができやしないかと、そんな事を考えた。
大海に突き出すように伸びる防波堤を行ったり来たりしながらロッドを振った。
ポイントになるようなものがないので攻めあぐねる感じだ。
しばらくするとようやく目が慣れてきたのか、メバルが泳いでいるのが見えるようになってきた。
その群れに向けて投げているうちに、落ちたフライに一瞬で食いついたヤツがいた。
やる気のあるメバルはこうなんだなあ。とにかく一匹。
「どうですか? 釣れますか?」と親子連れのお父さんが話しかけてきた。
迷いのないアタック。惚れました(^O^;)
ここからはちょくちょく車を停めてはiPhoneのMapを見つつ移動した。初めて入った島だからだ。
初めてと言っても海が見えることに変わりはない。でもやっぱりどこか雰囲気が違う。
まず海の先に四国が見えている。この島からだと本州よりも四国の方が近い。
いつもと違った場所に来ているという高揚感が徐々に込み上げてきた。
そして、更に橋を渡った。
そこは今治市だった。
まずまずのメバル。釣り具屋サビキの効果か?
一匹釣れていたからなんとか釣れてますと返事が返せた。
だがそのあとが続かない。潮流のあるのはだいたい二時間半。もう一時間は過ぎている。
僕はこの港を切り上げ、来た道を戻る事にした。途中に良さそうな港がいくつかあった。そこへ行って見るつもりだった。
そのうちのひとつに寄った。数人の釣り人が防波堤の突端にいたので僕は中間くらいで探ってみた。
フライは自分のを使いたかったが時間に追われていると余裕がない。前回の釣り具屋サビキをまた結んでいた。
ここでもメバルが見えるが食いついてこない。粘っていると突端の釣り人がやってきて「釣れますか?」と言ってきた。
「いやあ、つっついてはくるんですが」と言うと、「ここにはおっきいのがおるからね」と言って戻っていった。
そうか大きいのがね。しかしここもどうにも釣れる気がしない。時間を気にしていると気ばかりが焦る。
結局大小合わせて七つの橋を渡った。七つの島も大きさはまちまちで大きな町のある島もあれば無人島もある。僕は最後の橋のかかった七番目の島の更に東側の港を目指した。
どうせ行くなら一番端っこまで、というのが心情だろう(誰の?σ(^_^;))
最後の港に着くと大きな防波堤に数人の釣り人がいた。防波堤から先は外海のように大きく海が広がっていた。いつも行く島々が点在している所とはずいぶん景色が違う。
その広がりに圧倒されつつ僕はようやく釣り支度をした。満潮の時刻は過ぎているからそろそろ潮流が始まりかけているころだろう。
僕が防波堤を歩いていると、先にいた釣り人たちは道具を仕舞い始めていた。上げ潮で釣っていてそろそろ終わるタイミングのようだ。下げ潮狙いの僕とは入れ替わりになる。
連続ヒットなるか? 制限時間はあとわずか。
橋は離島をいとも簡単に陸続きにしてしまう。
低空で滑空するカモメ。目の前で魚を捕えるシーンも。
(いつもの島へいくか。)僕は最大限の妥協案を自分に示した。
ちょっと違う場所で、というつもりだったが一応一匹釣ったし、このままみすみす下げ潮のチャンスを逃すのは口惜しい。
僕は迷わず橋を四つ戻ることにした。
最初の島以外には信号がないのでノンストップで一気に走れる。
橋をひとつ、島をひとつ過ぎる度にiPhoneのMapの位置情報は刻々と移動していく。
その実感はただ車を運転しているだけの時よりもより強く感じる。
四つの海峡を戻り、いつもの港が見えてきた。
あの橋のあの島の更に先へ〜σ(^_^;)
港に入ると良さそうな場所にはすでに釣り人がいた。僕は邪魔にならないように離れてロッドを振り始めた。
いつも狙って来る時と同じように激しい潮流が起こっている。
サビキをキャストするとすぐに小さいメバルが食いついた。潮がいいのか、サビキの効果か?
港のあちこちで声が上がる。ほかの人も釣れているようだ。
最初からここに来れば良かったとも思うが、いやこの連なる島々を巡るのがきっと今日の釣りなのだ。
またメバルが僕のロッドをぐいと曲げた。