其ノ二百五十四  アイボリーの呼吸
ラインを巻いております。今回はWFにしました。
この季節、毎度のことだけど、日に日に陽が長くなってくる、その変化を体感するたびに、解禁が近づいてきているのを実感する。
まだ北部では1m以上の積雪があるというのに、それでも季節は確実に移ろいでいく。

新しいフライラインを買った。何年ぶりかのこと。
渓流の#3、#4だとずっとDTを使ってきていたが、今回WFを手にする事になった。
なぜそうなったのか?
MAEKAWA CRAFTのカスタムリールが今年のメインタックルのひとつだ。これを#4ロッドで使うつもりでいる。
で、#4ラインをということになるが、このリールは#4のDTはぎりぎり入らなかった。
短めのDTをあれこれ探したが、短めのラインは色が派手なものしかなかった。
ちょっと派手過ぎる色はパスしたいしキャパシティで絞り込むとどうしてもWFのラインということになった。
色はハンドルがアイボリーなのでその色に合わせたくなった。
アルミの鈍い輝きが気持ちを昂ぶらせます。
解禁前は年券を買ったりティペットを買ったりフライを巻き溜めしたりと、気持ちが釣りに向き始める事柄があれこれある。更には陽の長さで季節の移ろいを知り、鼻のムズムズで木々の芽吹きを知る。
今年はまだ雪が残るだろうから三月はなかなか思うように釣りがでないかも知れないが、解禁したら一回は行ってみないと落ち着かない。そうなると釣行先がまた悩ましい。
そういった事柄に加えて今年は新しいラインを新しいリールに巻いた。そもそも元から持っているリールやラインは巻きっぱなしなので、引き出してドレッシングを施すくらいしかしないのだが、一からラインを巻き始めるのはやはり解禁が目前に迫ってきているのだなあと、いやでも気持ちが昂ぶってくる。
準備は整いました。あとは冷たい渓の水に浸すだけ。
ところがSA/3Mのラインはアイボリー単色のフライラインが今年のカタログからなくなってしまっていた。
ツートンでほかの色と組み合わせたものはあるのだが。
いつもの釣り具屋に在庫がひとつだけあったので、色々な流れでこの#4のアイボリーのWFラインに行き着いた。

こうやって考えてみると全くラインのテーパーの種類や機能とかそういったもので選んでいない。
まあこういう選び方もたまにはいいか。
優しい色で、クラシカルなリールにも良くに合う。
オフシーズンはラインストッカーに巻き変えてとかやればいいんだろうけど、これがまたやりそうもない性格だから仕方ない。
しかしリールにラインを巻き直す作業は、解禁前の厳かな儀式のようでもあり、悪くない。
スプールに巻かれたラインはパッケージに収まっていた時とは違い、本来の仕事をする準備に入ったことを知り、呼吸を始めたかのように見える。
全くぶっつけ本番でWFを振ることになるのだが、なんだかしっくりくるような気がしてならない。
僕の手にはリールに巻いた時のラインの重さが残っていた。